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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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L'amour est aveugle. (仏→日)




戦況はいまだ不利なのです






 


上等の絨毯が敷き詰められた大広間、その端の壁に近い場所で日本はぼんやりとざわめきを聞いていた。天井から降り注ぐ煌びやかなシャンデリアの光も、ご婦人方の華やかな衣装も美しいが、楽しめる気分ではない。ありていに言えば疲れていた。
立食形式のパーティーはなんだか苦手だ。食事時にうろうろと動き回るのに違和感を感じるので、日本はそうそうに隅の丸テーブルに落ち着き、そこから動いていない。部下が気を利かせて取ってきてくれた皿には、温野菜のサラダと卵料理、少々の鶏肉。一番薄味であろうソースがかけられ、常温になったミネラルウォーターはもちろんガスなしだった。それらを細々と食べ終わり、あとは帰る時間を見計らうだけ。
主催国が近くを通ったら辞去の挨拶をしよう。そう決めて、腕時計から広間の中央へ目を移したとき、視線を感じた。
日本はさりげなくあたりを見回すが、こちらを見ている人物はいない。気のせいかと肩の力を抜いたそのとき、背後から突如現れた腕に抱きすくめられ、日本は小さく悲鳴をあげた。



「サリュ、日本。コマンサヴァ?」



「ふ、フランスさん…。ウィ、サヴァ。メルスィ」



反射的に答えると、フランスはクスクスと笑う。耳元に吐息がかかるので身じろぐと、いっそう腕に力が込められた。
淡い麝香の香りを漂わせる袖口を引っ張るとするりと腕が解かれ、フランスの体温が肩口から離れる。そのまま流れるような動作で空いた椅子を引き寄せ、彼は日本の隣に腰をおろした。



「やっぱり可愛いなぁ、姫。フランス領になれよ」



「もう、酔っていらっしゃるんですか? その話は幾度となくお断りしているでしょう」



「悪いようにはしないって。ムッシュ・シガも言ってたぜ、お前にはフランス語が似合ってる。英語やドイツ語なんかよりもずっと、な」



苦笑で断る日本のつれなさにもめげずに、不埒な指先が黒繻子のような髪を侵略する。くすぐったさに肩を竦めると、ことさら余裕を感じさせる男性的な笑みが目の前にあった。
己の魅力を知り尽くしているがゆえの傲慢な物言い、それを嫌味に感じさせないところはまさに彼らしい。冗談めかした口調と、甘いまなざしのせいかもしれない。日本がひとりでいるのを見つけて構いに来てくれたのだろう。どうして輪に入らないのかと聞かないでいてくれるところも好ましかった。とりつくろう必要をあまり感じさせない、その意味では彼との会話は気楽だ。力を抜き吐息だけで笑うと、フランスは片眉を上げて日本の顔を覗きこんだ。



「日本、やっぱ疲れてる? ここんとこ移動つづきなんだろ」



「大丈夫ですよ。まだまだ若い方には負けませんって」



気遣わしげな色を帯びた瞳に見つめられ、日本は思わず目をそらした。自分が心配される側にまわるなんて、ずいぶん長いこと味わったことのない感覚だ。なんだか居心地が悪い。



「ならいいけど、疲れたなら言ってくれよ? 休憩できる部屋もちゃんと用意されて……」



「日本、法國」



紡がれる低音のフランス語の流れを、別の声が断ち切った。
振り向けば、そこには日本と同じほどの背丈の、黒髪の男が立っている。



「中国さん」



呼びかけると、中国は咎めるような眼差しを日本に、フランスには怒りを宿した目を向けた。





  * * * * *
 




怖いお兄ちゃん登場、ってか。いままでホールの反対側にいたくせに、目ざといものだ。
表情から見るに、これは相当怒っている。さてさて、いったいどうしたものやら。



「法國、その手をひっこめるよろし」



押さえた声音の中国語は美しい抑揚をもち、しかし毒の棘にも似て鋭い。切れ長の目は厳しい警戒の輝きを宿している。そのオリエンタルな美貌も好みではあるが、いまこのときばかりは邪魔以外の何物でもない。



「何だよ中国、嫉妬か?」



挑発するように言えば、隠し切れない怒気が周囲の空気を圧迫した。けれど気にしたら負けだ。ご希望通りに日本の髪からは手を引き、代わりにその手を握る。柔らかい小さな手は冷たかったので、自分の手の熱を分けるように包み込んだ。
戸惑うように揺れる日本の目。彼はきっと気づいていないのだろう。この手に視線に言葉に、よこしまな下心がたっぷり混ざっていることに。



おふざけが本気に変わったのがいつかなんて、俺にもわからない。けれども、だからといって引き下がりなどしない。



「俺、今夜は日本と話したい気分なんだよな。デートのお誘いなら、またにしてくんない?」



あくまで軽く、余裕の態度を崩さないように。なぜ中国が怒っているのか、まるでわかりません、というように。
普段の彼であれば、「バカにすんなある!」と怒鳴りだすはずだった。しかし。
中国はフ、と息を吐き、剣呑な視線が刹那、床に落とされる。
一瞬の後に再び絡み合った視線に、肌が粟立つのを感じた。漆黒の視線に両目を射抜かれる。



しらばくれるな、と。



「我は日本に用がある。日本、ついてくるよろし」



中国は長い袖をひらめかせた。さも当然のように命ずる口調は不機嫌そのものだ。



「中国さん……、少々、フランスさんに失礼じゃ……」



「ついてくるね」



たしなめる日本の言葉を封じるように、中国は断固とした声で繰り返した。かすかなためいきを残して、日本は椅子から立ち上がる。俺が握った手を遠慮がちに引いて、拘束から抜け出していく可愛い獲物。ああ、行っちゃうんだな。



「すみません、フランスさん」



眉をハの字にして謝る日本に苦笑を返す。ちょっと俺キズついちゃったよ?



「仕方ないさ。またな、日本。今度は邪魔されないところで」



白桃色の頬を指先で撫でると、横合いから手を叩き落された。中国は長い袖を広げて日本を背に庇い、俺を射殺しそうな目で睨む。



「あまり調子に乗ると痛い目みるあるよ」



吐き捨てるが早いか、何か言いたそうな日本の肩を捕らえ引きずるようにして去っていく。
遠ざかる二人の背をなんとはなしに見送って、ため息をついた。あっというまにお姫様は連れ去られ、男はざわめきの中に一人ぼっち。二昔前の映画にそんな場面があったような。





「あれ、とられちゃったの?」



後ろから掛けられた声と、テーブルに落ちた濃い影が笑う。



「ロシア……見てたのか?」



「けっこう最初のほうからね」



自前で持ち込んだらしいウォトカを瓶から直接飲みながら、ロシアはふわふわした笑みを浮かべた。何がそんなに楽しいんだか。



「本気だって、中国くんに感付かれちゃったのは失敗だったね」



「お前だって狙ってるんだろ」



恋愛的な意味でないにしろ。
そう付け加えると、ロシアは笑った。



「うん、僕の場合、二人ともだけどね。さっきみたいな中国くんも、好きなんだ。ぞくぞくして……、欲しくなる」



俺は、あんな中国を見たのは初めてだった。少なくとも西洋諸国に対しては、あれほど傍若無人な態度をとったところなど見たことがない。近代以降、力の差は歴然だったのだから。



「日本くんもちょっと、楽しそうだったよねぇ」



「どのへんが?」



「あれ、わかんない?」



ふふ、と笑って、ロシアは俺の目を覗き込んだ。陰惨な冬空の色をした瞳は虫の脚をむしる子どものような、無邪気な光を灯していた。歌うように、ロシアは言葉を紡ぐ。



「自分の特別な人にさ、強く意識されるのってうれしいじゃない」



残り少なになったウォトカを呷って飲み干してしまうと、じゃあね、とロシアは手を振った。おざなりに返事をして、いつのまにか止めていた息を吐き出す。知らずに力が入っていたようで、肩が痛かった。




(…………どうしたもんかね)



しかし、あきらめるつもりはさらさらない。日本が欲しい。どうしようもないほどに。
目の前に待つのが迷いの森でも底なし沼でも、もう立ち止まれないことは百も承知なのだ。どうせ飛び込む戦なら、勝ち戦にしなければ意味がないだろう?





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ピリピリしてる中国さんは怖いけどキレイだといいですね。



ムッシュ・シガは、国語フランス語化論のあの人。




 

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