銀星糖
こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。
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シュテッフルで待ち合わせ
墺日デート 出発
青すぎる空に白い雲。朝のさわやかさも幾分薄れて、高度を増していく陽射しが眩しい。
「あー、今日も一人楽しすぎるぜー……」
家に一人で残るのもなんだから、とヴェストについてきたのはいいが、現在無職であるプロイセンにはやることがない。
昨日の会議と晩餐会が終わった後、「懸案事項が持ち上がった」としかめっ面で一言告げたあと、ヴェストはどこかへ行ってしまった。深夜まで仕事とは、よくやるものだ。しかも朝になっても帰ってこない。
無理はするなよと言おうとしてケータイに掛けると、どうも苦手な彼の秘書が代わりに電話を取ったものだからおもしろくない。あんなのにケータイ預けとくんじゃねぇ、とブツブツこぼしながら朝食を取る。白パンがふわふわと柔らかすぎて落ち着かない。
大戦が終わってからもヴェストの家に居座り続けている“奴”の、本来住まうべき屋敷に寝泊りするのも五日目。普段誰も住人がいないのに掃除が行き届いているのはハンガリーの手回しだと聞いてイライラしたが、マリアツェルとかいうピョロリを引っ張るのはやめておいた。フライパンがどこからともなく飛んできそうな気配が、この屋敷のあちこちに染み付いているのだ。
その屋敷の主人も、今日は朝から姿を見ず、ピアノも聞こえない。ヴェストと二人で仕事か、それとも楽友協会にでも顔を出しに行ったのか。まああのスカした面を見ないで済むなら何でもいい、とプロイセンは結論付けた。
背の高い正門を開けて通りに出、自転車にまたがる。こんな風にウィーンをぶらつくのも五日目。昨日は郊外に出てベートーヴェン夏の家まで行ったので、今日は街を見て回ることにする。
「さて、まずはどこに行くかな……」
古くからの高級住宅街である第一区インネレ・シュタットからケルントナー通りを北上すると、ゴシック様式の尖塔が見えてくる。800年以上の歴史を持つウィーンのシンボル、シュテファン寺院だ。
さすがに観光都市だけあって、今日も見学者がぞろぞろと寺院に入っていくのが見える。また、ウィーンっ子の待ち合わせ場所の定番であるため、人通りはとても多かった。自転車を降りて、地図を広げる。さて、ここからどこへ行こうか。まずはカフェハウスでコーヒーでも飲むか、市場で軽食を買って公園に行くのもいい。
と、プロイセンの鷹の目は、見覚えのあるシルエットを視界の端に捉えた。特徴あるピョロリに眼鏡、仕立はいいが型遅れの外套を着たいけ好かない“奴”が、寺院の前に立っている。行き交う人や車へ投げる視線が、どこか人待ちげだ。
もしやデートか?
「相手は誰だハンガリーか? それとも別の女か?」
ヴェストは完徹で仕事をしているというのに、こいつはのうのうとデートなのか。そう思うとなんだか腹が立つ。いつものことだが。
建物の陰からしばらく見ていると、一台の観光馬車がオーストリアの近くに止まった。降りてきたのは……。
「日本じゃねーか……」
女とデートではないらしい。珍しい組み合わせに疑念が膨らむ。何か企みの匂いがする。
こういうカンにかけてはプロイセンは自信があった。
オーストリアが御者に一言かけ、そして二人はツアー客に混じって寺院の中へ入っていく。プロイセンもすかさず後を追った。貴族のボンボン程度になら見つからずに様子をうかがうくらいお手の物だ。通り過ぎざまに馬車を見ると、札が下がっていた。『本日貸切』。
「この大聖堂はオーストリア公ルドルフ4世の命によって建造が始められ……」
しかつめらしい顔で説明をする奴の横で、日本はきょろきょろと周りを見回している。派手で緻密な装飾が施された聖堂内を進んでいくと、奥にバロック様式の主祭壇がある。祭壇画には、キリスト教徒の最初の殉教者となった聖ステファヌスの投石による死が描かれていた。
教会内を歩きながら、絵にまつわる話や、神聖ローマ皇帝フリードリッヒ3世の墓についてのオーストリアの説明が続く。まるきり観光案内の風を装っている。ますます怪しい。
「モーツァルトもここで結婚式を挙げたんですよ」
「ほぅ、そうなんですか」
「あちらからはカタコンベ(地下墓地)に入れるようになっていますが、今日は少々混んでいるようですね……。エレベーターで展望台に上ってみましょうか。オーストリア最大の鐘をご覧に入れましょう」
まずい。いくら何でもエレベーターに同乗したら、こっそり様子を窺っているのがバレてしまう。何か良い方法はないかと考えても、焦っていては思考がまとまらない。せわしくあたりを見回すと、装飾過多な柱の陰に、見たことのある後姿を発見した。また妙なところで会うものだと、プロイセンは彼の肩を叩いた。
「おい、何やってんだよお前」
「ひ、ひぁっ……?! あぁぁっ、ぷ、ぷろ、プ……ごめんなさっ……」
奇妙な声を上げてびくびくと振り返った少年は、こちらの顔を見るなり謝りだす。なんだかこれでは自分がカツアゲか何かを試みているように見えてしまうではないか?!
「落ち着けよ……! なんでお前いつもそうなんだよ、ラトビア」
「ご、ごめんなさい、プロイセンさん…… あの、これはその事情があって……」
「事情? っつかお前ここで何してんだ?」
彼の小さな手にはハンディカムと、イヤフォンのついた箱型の機械。それぞれにストラップがつけられていて、ラトビアはそれを首から提げている。怪しい。
「って、ああ見失った?!」
ラトビアにかまけている間に、肝心のオーストリアと日本はエレベーターに乗っていってしまったようだ。舌打ちをすると、横でラトビアがウサギのようにびくついた。
「あ、あの! プロイセンさんも、日本さんたちを尾行、してらっしゃる、んですか……?」
「尾行? バッカお前、なんでオレがそんなこと。ただオーストリアの野郎と日本なんて組み合わせが怪しかったから様子を窺ってただけだ!」
「そ、それを尾行って言うんじゃないんですか……?」
「っせぇな。お前のほうこそアイツらストーキングしてんだろ。あやしーの! あーあ、あの坊ちゃんにバレたら、お前どんなメに合わされるのかなー」
小さな手いっぱいに抱えられた機械類を指すと、ラトビアのぷるぷるがまた大きくなった。ふぇ……、と幼い双眸が水気を増す。見ているとイライラするが、ここで本当に泣かしてしまうのもマズい。バックにはロシアがいるのだ。あの熊さんが手下をいじめられて黙っているわけがない。
プロイセンはエレベーターの扉から死角になっているベンチまでラトビアを連行した。
「お、お、おねが、…します……!! ば、バラさな、いで、くださぃ……!!」
震えながら喋るせいで声が途切れ途切れ。今にも死にそうな顔色で懇願され、いじめっこ心は萎える一方だ。ベンチに座らせ、落ち着くように言うと、ラトビアは乾きかけの金魚のように口を開閉して小さな呼吸を繰り返した。
「まぁ、同じ東側だった仲だ。予想は大体ついてるぜ。ロシアだろ?」
努めて優しい口調を心がけて言う。ぷるぷるしながらも、ラトビアはしっかり頷いた。少しは落ち着いたらしい。
「昨日のパーティーが終わった後、ろ、ロシアさんが……」
ラトビアの語ったところによると、事の発端はこうだ。
昨晩ロシアが日本に、『日本くん、明日の予定は?』と訊いた。日本の予定が空いていたとしてロシアがどうするつもりだったのかは知らないほうがよさそうだが、それはともかく。
日本は『明日は人と会う約束がありますので』と断った。
そこでロシアはラトビアに、日本が誰と会って何をしたのかを調べてくるよう命令した。
「人選まちがってるな」
「僕もそう思います~……」
ロシアの言いつけを遂行せずにコルコルされるのも怖いが、日本のあとを尾けるのも怖い。
なにせ相手はかつて天井からいきなり降ってきて自分を瞬殺した忍者。素人臭い尾行などあっという間に見破られてしまうかもしれないと思うと足が震えて、ラトビアは途方にくれたという。
「廊下の隅で泣いてたら、は、ハンガリーさんが、話を聞いてくれて……」
同じ東側だったハンガリーに相談すると、何故だか彼女は不敵に微笑んだ。
『大丈夫、私がなんとかしてあげるわラトビアちゃん! 日本さんの明日の予定、私もう掴んでるの。二人で力を合わせればあ~んなことやこ~んなことまで可能性無限大だわ!』
そして目を爛々と輝かせるハンガリーの勢いのままに、作戦会議が進んだ。彼女の情報によると、今回のオーストリアの奇行、もとい日本と待ち合わせて寺院に来たのは、彼が日本のためにウィーン市内の案内を買って出たからだという。
「その、オーストリアさんの一日ウィーン観光コースの予定メモを、ハンガリーさんがコピーして持ってたんです……。それで、今朝早くに先回りして、エレベーターの天井や展望台の数箇所に、その、か、か監視カメラを」
「つけたのか」
「ぼ、僕は手伝いで……。つけたのは、その、ハンガリーさんとドイツさんです」
「ヴェストがぁ?」
まさか。あの堅物が仕事をほったらかしてそんな真似するはずがない。
疑いの目を向けるプロイセンにびくぶるしながら、ラトビアははくはくと息を喘がせた。
「そ、その、オーストリアさんの計画を知ってたのがドイツさんとハンガリーさんだけで、その、ハンガリーさんがあんまりやりすぎないように、ってドイツさんが…………」
それならわからないでもない。確かにハンガリーには過激なところがある。過去に何度も戦争してきた自分だからこそいえるのだが、彼女がリミッターを外すといろいろ大変だ。
「あっ……、電話が。ちょっとすみません」
ラトビアは低い振動音を発している端末のボタンを押して、耳に当てる。プロイセンも耳をすませ、機械から洩れ聞こえる声をしっかり捉えた。
「もしもし……ハンガリーさん?」
『ラトビアちゃん、もうすぐ二人ともエレベーターに乗って下に降りてくるわ。移動中は馬車に設置した隠しカメラと盗聴器でカバーできるから、先に車で次の場所に向かいましょ』
二人の動向を知らせてくるということは、ハンガリーはどこか別の場所で監視カメラの映像を見てラトビアに指示を送る役なのだろう。
しかし、馬車にも隠しカメラと盗聴器とは……。ヴェストがいても彼女の勢いは減殺されていないようだ。オーストリアに関することであれば、彼女はCIAにも勝てるに違いない。
「りょ、了解です……。あ、あの、実はその、僕、」
『なぁに? 何か困ったことでもあった?』
「ぷ、ぷろ…… 「おいハンガリー、オレ様だが」
電話を掠め取って耳に当てれば、機械越しにも分かるくらい、空気が冷え込んだ。
『なんでアンタがそこに居るの、プロイセン』
「たまたまラトビアが怪しい行動してるの見つけたんだよ」
舌打ちの音とため息が重なって聞こえた。まったくもう、というハンガリーの声が遠くなり、つづいて聞こえてきたのはバリトンの美声。
『オストか、ジンガー通りに停めてある白のヴァンまで来てくれ。お前には難しいかもしれんが、目立たず騒がず寺院を出るように。間違っても感付かれるなよ』
「あ゛? お前ダレに向かって言ってんだ。このオレ様がそんなドジ踏むわけねーだろ」
『自覚がないのか? いろんな意味で目立つんだぞ、お前は。ああそれと、いま二人はエレベーターの前だが、機器の位置が悪くてどうも音声が拾いにくい。ラトビアの持っている方で録音するように伝えてくれ』
ヴェストはそれだけ言うと通話を切ってしまう。ラトビアが不安そうにきょときょとと携帯、エレベーター、プロイセンの順で見比べているのを極力意識しないようにして、彼が持っている箱型の機械を取り上げた。アンテナを伸ばし、イヤフォンを片方、左耳に入れる。
「お前も付けろ。で、録音はどーすんだ?」
ラトビアは右耳にイヤフォンを押し込むと、本体の側面についたスイッチをスライドさせ、つまみを回して音量を上げた。
《…………て、……ばらしい眺めですね》
《そうでしょう、町並みの保存には随分力を入れているのですよ》
「か、感度良好、ですね……。実はコレ、オーストリアさんの上着の袖ボタンを盗聴器と入れ替えたものだそうなので、あんまり電池が保たないんですけど」
呟いて赤い録音ボタンを押す。やけに手馴れた操作だ。やっぱりコイツもアレだなぁ。まったく、一人楽しすぎる一日のはずが、とんでもないことに巻き込まれたものだ。
と、妙な好奇心を働かせてオーストリアと日本の様子を窺った自分のことはキレイサッパリ除外して、プロイセンはごくごく小さなため息をついた。その時。
《------? オーストリアさん、さきほどから何か……妙な視線を感じませんか?》
「----------------------っ?!!!」
息を詰まらせてラトビアが肩を跳ね上げる。日本がドイツ語からいきなりフランス語へと言語を切り替え、小声で、しかし確かにそう言った。
《そうですか? 警備のための監視カメラか何かでは?》
《いえ……、気のせいならば良いのですが。どうも複数方向からのような……》
外国語で伝えたのはほかに何人かいる客に配慮してのことだろうが、同時に不審な気配に向ける警戒とも取れる。
プロイセンは持ったままだったラトビアの携帯で、着信履歴の一番に表示された番号を押した。
『Szia? ラトビアちゃん?』
「ハンガリー? やばいぞ、日本がっ、なんか勘付いたみたいだ!」
『なんだアンタなの。ええ、今エレベーターの前で周りを見回していらっしゃるわ。あ、来た。これから降りてくるから、アンタは早いとこ撤収して』
どうやら時間がなさそうだ。プロイセンは指示されたとおりに、寺院から撤収することにした。ぐずぐずしていてターゲットに見つかりでもしたら厄介だ。歩き出そうと右足を踏み出した。しかし左足が持ち上がらなかった。
「ぷ、ぷろ、ぷろいっ…セッ………さ、おお、お、おいて、かな、いでっ……!!」
ラトビアが両腕でしっかり左足にすがりついて、涙でぐしゅぐしゅの顔で見上げてくる。激しく震える体と真っ青な顔色、酷い恐慌状態だ。
「こっ、ころされる……、ぼくっ、にほ、にほんさんにっ…………!!!」
「だっ、ダイジョーブだって! 見つかっても、ハンディカムで寺院内撮ってたって言えばいいだろ。それに日本が殺すなんて」
「だって、ろ、ろろろしあさっ、とっ、にほ、んっ、さん……! す、すごく……こわい゛ん゛でずぅーーー」
それはあの二人がお互い直に対面したときに限っての話だ!
だが、このままではエレベーターが一階に着いてしまう。仕方がないので、プロイセンはラトビアを背負って走り出した。盗聴の受信機とハンディカムが揺れて走るたび身体にぶつかるが、構っていられなかった。トップスピードで建物から飛び出し敷地を抜けて、ジンガー通りに飛び出す。路肩に寄せられた白のヴァンに駆け寄れば、ヴェストがすぐにドアを開けてくれた。
「……っは…ーーぁ、……ハード、だぜ…………」
ラトビアを背中にくっつけたまま、ヴァンの床にへたばる。秋の乾燥した空気を思い切り吸うと、肺と喉がひゅうひゅう鳴った。
ヴェストの大きな手が倒れた身体を助け起こしてくれる。つづいて、絡まっていたイヤフォンを受信機から引っこ抜いた。
《…………て、そろそろ次の場所に向かいましょうか》
電源が入りっぱなしの受信機から、少し遠くなったが、まだオーストリアの声がする。
《ええ。どんなところに連れて行ってくださるのか楽しみです》
もはや日本の声が聞こえるだけで、背中のラトビアがびくびくしている。いっそう強くしがみつかれて鬱陶しい。
「あらあら、ラトビアちゃんったら。プロイセンになんかくっついてたら、大事なところが取られちゃうわよ」
「取らねーよ!」
ハンガリーは怪しげにフフ、と笑い、すぐに視線をモニターに戻した。馬車のカメラだろう、二人が乗車してくるところが奥からのアングルで映し出されている。
エンジンがかかり、車が動き出した。先回りで次の場所に向かうようだ。
「って、オレも一緒に行くのかよ!?」
「仕方がないでしょ、時間もないし。アンタの間の悪さが原因よ」
一時の好奇心で行動するんじゃなかった、と後悔しても後の祭り。プロイセンは怪しい陰謀の只中に決定的に巻き込まれてしまった。
現在、午前10時50分。受難の旅はまだ始まったばかりだ。
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直すほどにドンドン長くなっていくので、分けました。
続きは……流れはできているんですけど……
まだイギリス連載も終わらせてないのに、また続き物で申し訳ありません。
最近プロイセンが愛しくなってきたので、登場させてみたらこんなことになりました。
勝手に元東独扱いで、ドイツからの呼ばれ方も判明していない捏造ですが。
墺日デート、次は日本視点でいきます。
せっかく『まっぷる』買ってコース設計したんで、もっと張り切って擬似ウィーン観光を妄想しなきゃ!
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