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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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拍手ログ 10

拍手ログ9の続きです。米と日で歴史要素ありのうえ、暗いです。苦手な方は退避お願いします。











「アメリカさん、写真を返して下さい」



いつものように病室を訪ねた俺に、挨拶もなしで日本はそう言った。包帯で真っ白の指が、黒い皮の手帳を掴んでいる。彼の持ち物は全部こちらで預かって調べているはずなのに、誰が持ち出したのだろう。



「この手帳に挟んであった写真が一枚、足りないのですが。どこにやったのですか」



「誰が持ってきたんだい、その手帳。まだ調べてる途中だから持ち出し禁止なのに」



「写真を返せと言っているのですが、聞こえないのですか」



口調こそ穏やかなものだが、険を増した眸の闇色は常ならず冷たかった。
粗末な毛布の上には、何枚かの写真が散らばっているが、調べたあとにしまい忘れたものがあっただろうか?



「見せてもらっていいかな」



ベッドの脇の椅子に腰を下ろして、俺は写真を一枚ずつ確認した。
プライマリースクールの子どもたち、満開の桜並木、上司と日本、南洋の島の少年、立ち襟の民族衣装で馬に乗る男、花の髪飾りをつけた少女、紅白の二色旗を掲げた青年、枢軸側の集合写真。
押収したとき、手帳の表紙裏に貼り付けた封筒に、これらの写真は大切に収められていた。日本の護りたかったものたち。



「これで全部じゃなかった?」



全部だったはずだ。こんなものがこれ以上あったはずがないじゃないか。
倒すべき巨悪には、実は護りたい大切で綺麗な宝物がたくさんありました、だなんて。悪がそんなものを持っていていいはずがない。けれど。
戦いが終わって、彼の手からはいろんなものが零れ落ちた。これからもいろんなものを失くしていくだろう。そう思ったら、なぜだか写真たちを処分するのが忍びなくなった。せめてもの情けで、これくらいの思い出は残してやってもいいかもしれない、と。
それなのにまだ足りないというのだろうか。



「いいえ」



今は片方を包帯に隠された、真っ黒な瞳。ひとつきりの目に煌々と闇を宿して、日本は俺を見た。そんな強い視線を向けられたことなど、かつてなかった。
それは必死で求める目だった。何をかといえば、きっと、彼にとっての大切な存在を。求めて、求めることにどうしようもない罪悪感を抱いた目。
どこかで、こんな狂おしい目を見たと思った。
ああ、もしかして。



「彼、の?」



思い出したのは、ある写真の切れ端だ。封筒に入れられずに頁に挟んであったせいか端がくたびれていたそれは、俺にも見覚えのある一葉だった。



「…………っ、返してください」



「挟んでおいたはずだよ? 少なくとも、俺が見たときはちゃんと元に戻した」



「ならば何故ないのですか」



「さぁ。誰かが抜いたんじゃないかな? 写真の彼とかかもね」



日本は今度こそ絶望の色をはっきりと浮かべて俺を見た。そうしてそれきり押し黙ると、窓の外に視線を投げた。夏の盛りに比べれば和らいだ日差しが、清潔なレースのカーテンを通して差し込んでくる。抜けるような空色に白い雲がぽつぽつ浮かぶ、いい陽気だった。なのに病み衰えた横顔は日の光の下でも照りを失って、薄く黄色味を帯びた和紙のようだ。褪せた唇の色のせいで、彼は急に何百年も老け込んだように見えた。



「ねぇ、どうしてあの写真を切って持ってたのさ?」



連合の集合写真が一枚、密かに日本と通じていた者の手によって流出したことは掴んでいた。占領直後に押収したその写真は、端に写っていた一人を切り取られた状態で日本の上司のキャビネットに収まっていた。



「彼は僕たちの仲間で、君とは敵同士だっただろう? なんで写真なんか持とうと思ったんだい?」



そしてその切れ端は、日本の手帳に栞のように挟まれていた。なぜだとか、本当は尋ねる必要もないのだ。きっと日本は今でも彼のことが好きなのだろう。写真の中から彼一人だけ切り取ったのはきっと、ささいな嫉妬の表れなのだ。
遠まわしでわかりにくい表現だが、これからは慣れていく必要があるだろう。なんといっても、これからの面倒を一切合切見るのは俺の役目なのだし。



「写真ならまた新しいのをあげるよ。いっぱい撮ってるからね。連合も随分増えたから、集合写真も撮り直したのがあるし……、そうだ、怪我が治ったらピクニックに行こうよ。それで写真もたくさん撮るんだ。新しく楽しい思い出を作ればいいよ」



古い記憶などにいつまでも縋りつくより、新しい関係を作っていくほうが日本のためにもいいじゃないか。少なくとも、何もできない彼と、何もできない日本との関係よりは。
約束だぞ、と念を押して、俺は日本の病室を出た。ドアを開ける音に日本はこちらを見たけれど、淀んだ闇色の瞳は俺を映さず、別の何かを待っていた。




 

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