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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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リナルド

ひさびさに仕上げたssです。
リハビリ用でお見苦しいかと思いますが、お楽しみいただければ…















Lascia ch'io pianga la dura sorte 
e che sospiri la liberta.     
Il duol infranga queste ritorte 
de'miei martiri sol per pieta.  




【リナルド】



ピアノが置けるようにと床を板敷きに張り替えた一室には、夕刻の赤光が差し込んでいる。
水紅色に照らされた日本の横顔は、アメリカの焦燥をひどくかき立てた。
 

「ねぇ、日本」



「はい、何ですか? アメリカさん」



鍵盤をたどる手を止めて、日本が振り返る。
すかさずその背に寄り添って、アメリカはピアノの蓋を下ろした。日本の手を浚って、指先に口付けを落とす。制止の声はいつもの通りに無視。抱きしめて額に唇を寄せれば、日本は細く息をついた。
柔らかな手で優しく、しかし逆らえない力で胸を押される。



「どうしたんですか、アメリカさん。そんな顔をなさって」



微笑を浮かべながら、日本が問う。
そんな顔って? 聞こうとしたが、アメリカは言葉に詰まった。
きっと今、自分は泣きそうな顔をしているに違いない。
日本を抱きしめていた腕を解いて、椅子の足元に蹲った。胸に渦巻くこの気持ちは、嫉妬だ。日本はきっと困るだろう。困らせたい。けれど、また困った顔で曖昧な笑みを浮かべるのはやめてほしいのだ。この矛盾を、どうすればいいのだろう。



「アメリカさん……本当に、どうなさったんですか? 誰かに何か言われました? それともお加減でも悪いのですか?」



椅子を降りて覗き込んでくる日本の吐息が、髪を揺らす。顔を上げられなくて、アメリカは手探りで日本の袖をつまんだ。絹の羽織りはひんやりと柔らかく、指先の熱を奪う。



「この家に、ピアノがあるなんて知らなかったな」



「そうですか? けっこう前から置いてあるのですが……」



「いつ、ピアノなんて習ったの」



責めるような響きになってしまったことを、アメリカは後悔した。日本がピアノを弾けることは、悪いことでもなんでもないのに。



「欧化政策の折に、華族のお嬢さん方の間で流行りましてね。その時に私も習ったんです」



外国の楽器が珍しくて、と彼は笑った。



「それで、どうして今日、弾いていたんだい?」



「アメリカさん、お忘れなんですか? 今年のクリスマスパーティーは、オーストリアさんのお宅で開かれるんですよ。何か演奏するか、歌うかしなければならないって言われたじゃありませんか」



そうだっけ、と言うと、日本が苦笑するのが気配でわかった。仕方がありませんね、と言って、立つように促され、のろのろと立ち上がる。
日本はアップライトピアノの上に置かれていたフェルトのカバーを取ると、蓋を開け、鍵盤に濃紅の布を掛けた。蓋をもう一度閉めて、鍵を掛ける。カチ、と響く音が、アメリカの心をほんの少し軽くした。
日本が襖を開けて、廊下へ出て行く。後をついて茶の間へ向かいながら、アメリカは胸につかえていた息を吐き出した。



「お夕飯は何にしましょうね。アメリカさん、何かリクエストはありませんか?」



「オムライスがいいな。サラダとコーンスープと、ほうれん草のオヒタシと、南瓜の煮たやつも。あと、タコさんウインナーと、モヤシ炒め」



「はいはい。ウインナーありましたかねぇ……」



冷蔵庫の中身を思い浮かべているらしく、顎に人差し指を当てて視線を上向かせる日本はアメリカの知っているいつもの日本だ。
テレビでも見て待っていてください、と言って茶の間の引き戸を開け、自分はそのまま部屋を抜けて台所へ向かう。その小柄な背中を見送って、アメリカは炬燵にもぐり込んだ。
寝転んで天井を眺めると、杉板に浮かぶ目のような模様があった。【そいつ】はいつもより少し歪んで、こちらを見下ろしている。ふと、あのメロディが脳裏に甦った。



アメリカはきつく目を閉じて耳を塞ぐ。これ以上、一秒だって聴きたくなかった。それでも、やわらかな甘い旋律は暗闇の中に這いこんでくる。



古い蓄音機とレコードを、アメリカは不意に思い出す。イギリスの家のリビングに置かれていたそれ。あの戦争のさなか、紅茶の時間に彼はヘンデルのオペラばかり流していた。



アメリカは知っている。その曲は二人の手が離れる日、最後のときを彩った旋律だ。古臭いロンドンのオペラハウスに吸い込まれていく二つの背中を見送ったあの夕べ。甘い調べを思い出のよすがに、彼らは。
彼らは、アメリカを責めたりしない。ただ、少しばかり切ない眼差しを、遠くへ投げるだけ。そしてまた、流せない涙を歌に代えて昔を想うだけだ。
その目に映れないことを、その耳に新しい歌の届かないことを、誰かが嘆いていることを知らないままで。





Lascia ch'io pianga la dura sorte  過酷な運命に涙し、
e che sospiri la liberta.         自由に憧れることをお許しください。
Il duol infranga queste ritorte        私の苦しみに対する憐れみだけによって
de'miei martiri sol per pieta.         苦悩がこの鎖を打ち毀してくれますように。

                     


                                                              (ヘンデル『リナルド』より 「私を泣かせてください」)


 


 

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