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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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大英帝国の流儀 5




決戦の日
















よく晴れた青空の下、吹き抜ける海風にセント・ジョージ旗が翻る。
軍港に集結しているのは海軍の船ばかりではなく、国中から集まってきた海賊船もまた、賑やかに決戦のときを待っている。鎧や武器の触れ合う音、馬の嘶き、船に水や荷物を積む水夫たちの怒鳴りあう声。
国務卿セシルは、その喧騒にため息をついた。緒戦を失った場合の外交の糸口を求め、水面下で必死に駆けずり回っているこの数ヶ月、まともに眠れた夜など数えるほどしかない。
寄せ集めばかりの軍勢で世界最強の海軍に挑まんとする祖国。普通に考えれば勝ち目などない。しかし、戦争は武力だけで成り立つものではない。戦闘と交渉。【戦争】はこの両輪でするものだ。どちらとも勝つのが一番良いが、たとえ戦闘で負けても、交渉が上手ければ領土を失ったり、賠償を取られたりする事態を防ぐことは十分可能なのである。
交渉を可能な限りイギリス優位に進めること。それがセシルの職務であり、報国の道だ。



「それで、勝算はいかほどなのですかな、ウォルシンガム卿。勝つ見込みは」



国務卿セシルは手袋の端を弄いながら、女王の顧問官を振り返った。
大敗北だけは、なんとしても避けねばならない。交渉のテーブルを用意するためには、せめて惜敗くらいには……



「見込みがあるかどうかではありません。勝たなければならないのです。アルマダの中に詰め込まれている陸戦部隊を残らず海中に沈めてしまう必要があります。我が国が生き延びるためには」



腕にハンフリーを抱いて、顧問官ウォルシンガムが答える。平板な声音とは裏腹に、その内容は随分と物騒だ。



「そんな暗い顔をするのはおやめ、セシル。老けるのが早くなるわよ」



「そうそう、陛下の仰るとおり」



女王と、その横に控えた男がセシルをからかう。渋面を作った彼の前で、二人は顔を見合わせて笑った。



「あんまり悲観的にならないでくださいよ、閣下。神は女王陛下を護り給います」



「あらドレイク、お前も私を護ってくれるんでしょう?」



「もちろんです、一番にリーズさまをお護りするのはこの俺の役目ですから」



にわか仕込みにしては美しい所作で、ドレイクは膝をつき女王の手に接吻した。ふざけているようすからは想像しがたいが、すでにマゼランに次ぐ二度目の世界一周を成し遂げ、スペインの植民地から莫大な財宝を略奪した大海賊だ。この度の戦では副司令官を務める。
先日、女王は海賊船の甲板で、彼の両肩に剣をあてて騎士の称号をお授けになった。



「期待しているわよ、私のキャプテン。さ、もうお行き。エフィンガム公と打ち合わせがあるのでしょ」



「イエス、ユア・マジェスティ」



ドレイクは一礼すると、女王の御座所から飛び出していった。
そして、目立たぬようにそのあとに続こうとする小柄な男を、美しい声が呼び止める。



「キャプテン・ブラック」



「は、はい、女王陛下」



しゃちほこばって返事をしたブラック船長を手招き、女王は嫣然と微笑んだ。



「戦の準備、ご苦労でした。カークランド卿からすべて聞いていてよ。ありがとう」



「そんな、もったいないお言葉です」



キャプテン・ブラックはつぶらな瞳に涙を浮かべて、声を震わせた。女王はその手を取って、銀製のロザリオを握らせる。



「これを持ってお行き。海に落ちないようにするお守りよ」



敬愛してやまぬ国王にまで【あれ】を知られているという怖ろしい事実に、ブラック船長の紳士なヒゲがひきつった。
真っ赤になってイギリスに恨めしそうな瞳を向ける船長の前で、女王は声を上げて笑った。



「戦争が終わったら、お前の店に食事に行くわ。ハムが絶品なんですってね」

 

 

 

 

 

 


「それで? いつもはセシルと一緒に心配ばかりしているお前が、珍しく余裕じゃないの」

リーズは席を立ち、長椅子に座ったイギリスのタイを引っ張って、その顔を覗きこんだ。白状しなさい、と海色の瞳が催促している。ウォルシンガム卿に目配せすると、ご随意に、とでもいうように頷かれた。腕の中のハンフリーも「教えろよ」とばかりにニャア、と鳴く。
イギリスはいたずらに感付かれた気分で、できればしたくなかった種明かしをする。



「……ヨーロッパ中の船大工と材木屋にな、金をばら撒いて。買収したそいつらをスペインの艦隊建設現場に送り込んでやったんだ」



目立つことをさせたわけではない。彼らの任務はサボタージュ、ただそれだけだった。マストが折れやすいよう手抜き作業したり、船底を支える板の耐久度を落としたり、船首の継ぎ目を外れやすいように作ったり。そんなことは大工達にとっては朝飯前だ。それでイギリスから金がもらえるということで、みんな大喜びだった。



「だからたぶん、スペインのハリボテ艦隊はドーバー海峡にやってくるまでにはもう船にガタがきてる」



リーズは目を見開いて、タイから手を放した。ふ、と薔薇色の唇から息が零れる。彼女は肩を震わせ、くすくすと鈴のような笑声を上げた。



「まったく、お前はどんどんあくどい子になっていくのね!」



「女王陛下がヤクザなご性分なもんで」



ニヤリと、およそ貴顕淑女には似合わない笑みを交わす。



「そうね、国も女王もヤクザな商売だもの、あくどいのは長所だわ。でも……」



リーズはふと目を細め、秘密、というように人差し指を立てた。



「ドレイクには秘密にしておきましょ。せっかく張り切ってるのにかわいそうだわ、敵がハリボテだなんて」

 


 

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お待たせしました、久々更新のイギリス連載でございます。
正史には残されなかった裏側のエピソードですが、イギリス諜報史上に燦然と輝く大金星・アルマダへの工作でした。
次は海戦の模様か、後日談かというところですね。



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