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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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大英帝国の流儀 6




戦闘開始










リーズは、粗末な木の壇上に立った。薄く頼りなげな肩をいからせて、背筋をピンと伸ばす。華奢な手に似合わぬ長剣を杖つき、居並ぶ兵士たちを睥睨する目には力があった。他の誰も持ちえぬ力、真の王だけが持ちうる光が。



海に愛された徴のような、深い青色の光だ。



豪奢なドレスの裾を海風にひるがえし、リーズは尖った顎をつんと上げて声を張り上げ、王国の兵士たちに話し始めた。



「My loving people-------」




愛する我が国民のみなさん。



私は、来ました。
遊びのためでも、気晴らしのためでもありません。
わが身を戦いの真っ只中に置き、貴方がたと、生死を共にするためです。
たとえ私の血と名誉が土ぼこりにまみれようと、
私は神のために、王国のために、国民のために、この身体を捧げます。
私は、かよわい身体を持った女かもしれない。
しかし私の心は国王のもの、イングランドの国王のものです。
我が王国の境界線を踏み躙る者は、それがなんぴとであろうと、戦いを挑みます。





凛とした声が、そう言い切ったとき。





God save the Queen!



誰かが叫んだ。
声はたちまち閲兵場を満たし、男たちの拳が空に突き上げられた。
熱狂の渦の中、女王はゆっくりと手を振り、笑みを浮かべる。
イギリスの身の内に熱がともった。心臓が燃えるように、血が沸き立つように熱くなる。兵士たちの歓喜がイギリスを震わせていた。



今なら誰にも負けない。
強く確信して、イギリスは国民の歓喜と闘志に震える手で剣の柄を握り締めた。

 





  * * * * * * * * 








1588年7月20日。



その日、総司令官メディナ・シドーニア公率いるスペイン無敵艦隊はプリマス沖にその威容を現した。
純白の帆いっぱいに風を受け、悠然と北上する威風堂々とした姿に、イギリス側はしばし声もなかったという。



しかしドレイクは慌てなかった。
総司令官ハワード・エフィンガムを補佐する任務を女王陛下じきじきに言い渡された誇りにかけて、スペイン海軍を残らず海に沈めてしまわなければならない。
敵軍の迫力に呑まれそうになっている幕僚たちの尻を蹴り飛ばすと、ドレイクは怒鳴った。



「バカ野郎どもめ、気をしっかり持てよ!! あんな鈍亀にイギリスの船乗りが負けるわけないだろうが!!」



デッキに仁王立ちして、ドレイクは吹き付ける風の流れを睨み付けた。子供のころから駆け回ったこの海のことは誰よりもよく知っている。潮流も岩礁の位置もすべて。イギリス海峡とドーバー海峡の女神は彼の永遠の恋人なのだ。



「全艦隊に通達、敵艦隊の風上を取れ! 足の遅い船から順番に海に引きずり込んでやれ!」 





21日未明、夜陰に乗じてイギリス艦隊は無敵艦隊の鼻先を横断。風上に出ることに成功した。
敵艦隊後方右翼のイタリア隊に猛然と襲い掛かり霰のような銃弾を浴びせる。不意を突かれた敵がようやく大砲の照準を合わせようかというあたりで、イギリス軍の船はスペインの大砲の射程外へと素早く退く。
長射程砲主体のイギリス艦隊は、この接近と後退を繰り返す戦法でスペイン艦隊を混乱させ、次に後方左翼にいたビスケー隊を襲撃した。船足が速いイギリス船に、スペイン側は翻弄された。



「あかん、機動戦はこっちが不利や! 全艦で統一行動を取れ! イギリス船が近寄ってきたら集団で一斉砲撃や!!」



手旗による合図が繰り出され、巨大なガレー船の群れが陣形を再度整え始める。地中海と比べ格段に荒い波に苦戦しながら、スペイン側はもっぱら防御に徹した。固まっていればイギリス船も容易に近づけず、もし接近したならばスペイン側の集中砲火を浴びることになる。



しかし、海賊船団は執拗だった。わざとスペイン艦隊を先に進ませ、後方から襲い掛かって片舷斉射を浴びせかけ、一隻ずつ沈めていく。ほかのスペイン船が救助に向かおうとすれば、その頃には海賊船はもう大砲の射程外へと逃げ出している。
27日、有効な反撃方法が見出せないスペイン艦隊を、イギリス海軍はフランス領カレーの沖あたりまで追いこんだ。







無敵艦隊に乗り込んだスペインの将軍達は歯噛みしていた。
当初の予定では、無敵艦隊アルマダがイギリス海軍を片付け、そののちカレー港でパルマ公の率いる陸戦部隊3万5千名と合流してイギリス本土に一気に侵攻するはずだった。
イギリス海賊船団の予想外の強さで苦戦はしたが、港から連絡を取ればすぐに援軍がやってくる。無敵艦隊はカレー沖に投錨し、陸に連絡を取ろうとした。現在ブリュージュで出撃準備中のパルマ公は、すぐにでもこの危地を救ってくれるだろう。





けれどもスペインのそんな甘い期待をすべて飲み干して、緑の目の悪魔は笑ったのだ。





パルマ公のブリテン島侵攻部隊はカレーに駆けつけるどころか、ブリュージュに釘付けにされていた。イギリス側についたオランダの封鎖艦隊が、彼の陸軍輸送船団を昼夜問わず監視し、一人の三等兵でも船に乗り込めばすぐにでも砲撃できる構えを取って威嚇していた。
エリザベス女王はオランダに巨額の資金を援助し、反スペイン勢力をあらかじめイギリス側に引き付けていたのだ。この手の工作は彼女の懐刀たちが得意とするところである。



そんなことも知らず、無敵艦隊は援軍の到着を信じて、カレー港沖で福音を待ち続けた。






 * * * * * * * *







待つ間にも、することはいくらももある。
全艦隊に食糧と水、武器弾薬の補給を命じて、スペインは嘆息した。シドーニア公をはじめ、今回の指揮官たちは陸将が大半を占めている。艦隊の運用や海戦の指揮どころか、船乗りの常識すら知らない者もいるのだった。おかげでスペイン自ら、あれやこれやと雑務をこなさなければならない状況だ。



「あーあ、クルスのおっさんが生きとってくれたらな……」



レパントの海戦で大活躍をした伝説の提督クルス侯爵は、イギリス侵攻を目前にして病死してしまった。
そして不幸なことに、スペインにはクルス侯のほかには総司令官を任されるほど身分の高い海軍将校が見当たらなかった。そんなわけで渋々ながらシドーニア公が就任し、おっかなびっくり海に漕ぎ出したのだ。無敵艦隊の提督たちは、そんな素人司令官たちのご機嫌を取りながら戦わなければならないときている。
スペイン自身も陸戦のほうが得意ではあるのだが、トルコとの戦争や海賊との交戦経験もあり、ろくに泳げもしない貴族たちよりは役に立つ自信がある。



「ああ、そやそや。ちょお、航海長!」



「御用でしょうか、カリエド大佐」



呼び止められて振り返った大男は、辟易した顔をしていた。海軍の所属ではない“カリエド大佐”に面倒を言われてはたまらないと言わんばかりだ。
それも今回は仕方ないかと、スペインはため息を押し隠して、必要なことだけを言葉にした。



「イギリス軍は海賊やからな、あいつら夜になったら、火攻めとかで夜襲をかけてくるかも知れん。見張りはしっかりさせぇ。他の艦にも伝えてんか」



「Si. ……大佐は、イギリスの海賊どもを相手にされたことがおありで?」



「向こうのプランテーション視察から帰ってくるときにな。難儀やったわ」



思い出すだに腹が立つとは、まさにあの眉毛のことだ。
この戦いで海賊の巣窟イギリスを締め上げてボロ雑巾のようにしてやらなければ、落ち着いて新大陸経営ができない。太陽の帝国の誇りにかけて、勝たなければならなかった。
それにしても、今回の無敵艦隊は随分と操舵に手間取っていた。ドーバー海峡は波が荒いとはいえ、艦を新調してから何度もリスボンの沖で訓練を繰り返し、水夫も砲手も鍛え上げたはずなのに。



「補給が終わったら、船体も全部点検せなあかんな。イギリスの砲撃から逃げ回って舵に無理かけた船も大分いてるはずや。艦長らに連絡回しといて」



「了解しました。さっそく伝令を出します」



夏だというのに、いやに冷たい風が髪をなぶっていく。
北西方向の水平線には、まだ敵の気配はない。穏やかな波が西日を反射して輝くさまは美しく、スペインは胸のつかえを吐き出すように深い呼吸を繰り返した。疲れた体には潮風と硝煙の匂いが厭わしい。オレンジの花が香る我が家を、スペインは恋しく思った。






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お、終わらなかった……。
全部収めると長たらしくなりそうなので、一旦切ります。
次で終わる…はず!

 


 

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