忍者ブログ

銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

誇り高き帝国(英)

1940年、八月。バトル・オブ・ブリテン。



実際の歴史をネタにしておりますので、大丈夫と仰る方のみご覧ください。



























まだ霧も晴れぬ、朝の六時。



「ちくしょう、あの芋野郎が!!」




黒焦げ、あちこち崩れている市街地に、イギリスの叫びが響き渡った。
心臓が針の山になったかのように痛い。痛いが、イギリスは歯を食いしばって呻きを堪える。
足元に散乱したガラス片が、靴裏でザリザリときしった。









この七月から本土がドイツ軍による空襲にさらされ、そして八月に入ってとうとう、ロンドンにも夜間無差別爆撃が加えられるようになった。



こちらも空軍の総力を上げて迎撃している。イギリス本土の制空権を敵に渡すわけには行かない。
しかし払っても払っても寄ってくるドイツ製の蠅は、何度もこの世界一の帝都に爆弾を投げ込んでくる。実にいまいましい!



ナチス野郎の分際で、無礼にもグレーターロンドンに爆撃を加えるなど、到底許せるものではない。



付き添っていたヤードの者たちに怪我人の救助と医者の手配、所轄の官庁への連絡を指示すると、彼は早足でストリートを歩き出した。




「覚えておけよあのチョビ髭、明日にはこちらから出向いてベルリンを廃墟にしてやるからな…!」



砕けた煉瓦の破片を蹴り飛ばしながら毒づき、街中を見て回る。どこもかしこも瓦礫やガラスが散乱し、道路に焼け焦げた穴が開いている。
いくつか角を曲がって進むと、大きな通りに突き当たった。
道路を挟んだ向かい側には、中央に大きな時計のついた建物がそびえている。威風堂々としたたたずまいは、イギリス自身も長年贔屓にしているデパートだ。
爆弾が直撃したのか、なじみのある濃い灰色の建物は玄関のすぐ横に大穴が開き、無残な焦げ跡までついていた。



職場の様子を心配して家を飛び出してきたのだろう、何人かの従業員が大穴の前に集まっている。



「mornin'、セドリック。夜は大丈夫だったか?」

 

玄関前で瓦礫の除去作業を指示している支配人を見つけると、イギリスは声をかけた。振り返った痩身の中年男性は、疲れた様子ながらも恭しく一礼する。

 


「これはこれは、カークランド卿、おはようございます。ええ、昨夜はひどいものでございましたね。お怪我がなくて何よりです」




「お互いにな。しかし、市民にもかなりの被害が出ているようだし、君のところも……」



「はい、この有様ですので、開店できそうにもありませんで…」



穴を塞ぐだけでも何日かかるか、と。
焼け焦げた壁にどちらからともなく視線をやり、二人同時に眉根を寄せる。
ふたたび臓腑が煮えくり返りそうな気配を見せ始め、イギリスは地団駄を踏み出しそうになる右足を、手を握り締めて押さえつけた。






荒れた市街、人々の険しい表情を見るにつけ、ドイツへの怒りは募る。自分の力不足にも。



自分は国民と国土を守らねばならないのに。






『我が王国の境界線を踏み躙る者は、それがなんぴとであろうと、戦いを挑みます』






頼りない肩を精一杯いからせてそう言い放った、彼女の姿が脳裏をよぎる。
国民にこのような惨めな思いをさせてしまっているなんて、情けなくて彼女に申し訳が立たない。



「リーズ……」



呟きが漏れたことに気づいて、親指の爪を齧った。手袋をしたままであることに気づいて、余計に情けない気持ちになる。






(そんな声でレディの名前を呼ぶものじゃないわよ。あいかわらずのへっぽこだわね)



鈴をふるように愛らしい、だが年経た梟のように気難しげな声が、突然に響く。頭が割れるように痛み、イギリスは額に手を当てた。
目の前がチカチカする。視界に飛び散る光は寄り集まって、人の形を成した。



(どうしたの、アーサー。情けない顔をして。我が王国はそんなぶすな男だったかしら?)



錫を持つはずの細く白い手に、宝石を鏤めた重い剣を持って、尖った顎をつんと上向かせて彼女は言った。



(私の遺言を思い出しなさい。お前がどんな存在として生を受けたか、まさか忘れたとは言わせないわよ)



手に持った剣をイギリスの胸に押し付け、幻の女は傲慢に笑う。軍服越しに感じた硬い感触はたちまちに融け、イギリスの身の内に沁み込んだ。
鼻の奥に痛みが沸き起こり、目の底が熱くなる。しかし、泣くわけにはいかない。涙を流すことは、禁忌だ。自分が流す涙の一粒が、国土の一欠け、国民の命のひとつ、国富の一滴かもしれないのだから。



パン!  と音を立てて両頬をはたく。突然の音に周りの人間が驚いた顔を向けたが、心配いらないと手を振っておく。



(ペンを出しなさい。こう書くのよ、いい?)



続く言葉に、イギリスは今度は噴き出しそうになるのを堪えるはめになった。相変わらず、彼女の発想力には驚かされる。
万年筆と紙片を取り出し、言われるがままに書き留めて、イギリスは怪訝な顔でこちらを窺っている支配人を呼んだ。



「セドリック。これをポスターにして、玄関の脇に貼り付けるといい」



差し出された紙片を覗くなり、支配人は破顔した。
かしこまりました、と落ち着いたテノールが紡ぐ。



「ありがとうございます、カークランド卿。おかげさまで、本日も定時に開店できそうでございます」



「いや、お役に立てて何よりだ。オーナーにもよろしく伝えてくれ」



「承りました。では、私はこれで失礼いたします」



先ほどまで肩を落としていたはずの彼はいつもと寸分変わらぬ、背筋がしゃんと伸びた見事な動作で45度のお辞儀をすると、建物の中へと歩み去った。






大きく息を吐き、肩の力を抜いた。
そうだ、自分は世界に冠たる大英帝国なのだ。英国紳士たるもの、常に平常心を保たなければ。
昂ぶった感情に振り回されるなど、あってはならないのだ。



大丈夫だ、自分は強い。絶対に屈服などしない。



(そうよアーサー、いい子ね)



歌うようにやさしい囁きとともに、細い腕が首に回され、甘い薔薇の香りが一瞬、イギリスを包んだ。抱きとめようとした掌をすり抜けて彼女は融け、イギリスの身の内へと還る。






「リーズ」



呼んでも、もう応える声もなかった。



イギリスは顔を上げて、灰色の空を仰いだ。ようやく霧が晴れてきて、ぎらつく太陽がザ・タワーを上ろうとしているのが見える。今日は暑くなりそうだった。






執務室に着いたら、まずは熱いミルクティーを飲もう。薄いトーストに
薔薇のジャムをたっぷりつけよう。
それから首相に送る書類を作る。
午後は軍部での作戦会議に出席する。



頭が冴えてきて、自分のすべきことがはっきり見えてくる。






リーズ、見ていてくれ。
この王国の境界線を踏み越えやがった愚か者は、俺が叩き潰してやる。






イギリスは再び歩き出した。









  ※ ※ ※

 




 

 


その日の夕方、イギリスは公用車で件のデパートの前を通りがかった。



朝と変わらず大口を開けた壁の穴の隣に、大きなポスターが貼られている。
焼け焦げ傷ついていても、デパートの盛況ぶりは常と変わらない。



爆弾でぼろぼろになった大通りで、人々はデパートの壁に貼られたポスターを見て笑顔になる。
その笑い声がイギリスの力になる。国民が強くある限り、イギリスは強くあれるのだ。










『本日より、入口を拡張いたしました』

 







 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------

バトル・オブ・ブリテンのお話でした。


 

“空襲でデパートの壁が大破したので、『入口を拡張しました』という貼り紙をした”

このエピソードは中学のときに習って、さすが皮肉屋さんの国だなぁと感心した覚えがあります。
有名すぎるネタなので、逆に誰ともかぶらないだろうと思って書いてみました。
首都が爆撃されるって、その国の国民にとってはすごくショックな出来事ですけど、そんな中でもジョークを言えるイギリスの人ってすごい。



【以下は言い訳などのオンパレードです】

あまり詳しく調べたわけではないので、デパートに穴が開いた日時、当日の天候とかもわかりません。
適当ですみません……

イギリスがなんか余裕ない人で申し訳ないです。
“感情は別として、常に冷徹な計算にもとづいて行動”よりも、
“感情が吹き上がってから、「いや落ち着け俺、平常心だ平常心……」”というのが彼のイメージです。

(ヘタリアを知るまで、イギリス人のスタンダードはWWW教授だと思っていましたので、イギリスの性格をもっとふてぶてしくしたほうがいいのかどうか迷いました)

文中でイギリスが呼んでいる“リーズ”は、“エリザベス”の愛称のひとつです。

ドイツに対して暴言だらけですが、イギリス視点ですので…すみません。芋とかチョビ髭呼ばわりで超ごめんなさい。
 

PR

プラグイン

カレンダー

06 2024/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

フリーエリア

最新コメント

最新トラックバック

プロフィール

HN:
No Name Ninja
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

最古記事