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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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深夜の初詣へ











【今年も貴方と一緒に】







考えてみれば、年越しを日本で迎えるのは初めてだ。
自分の家で小さな日本と一緒に正月を過ごした記憶はあっても、暦が太陽暦になってからは二人で年末年始を過ごすことなどまったくといっていいほどなかった。それでもまぁ、旧正月の期間になればなんだかんだで挨拶に来てくれるし、騒がしい方の弟も一緒に酒盛りをするのが常ではあるのだが。



近くの寺では除夜の鐘が鳴っている。
寒いなか無理矢理に連れ出されたけれど、神社の境内に明明と焚かれた篝火にあたって御神酒を呑むのはなかなか悪くないものだ。今年の当番に当たっている氏子たちが、社務所の前でカマボコやソフトさきいか、煎餅などを配っている。温まった指で蜜柑を剥いて、中国は冷たい実を一欠け、ぽいと口に放り込んだ。



「まだお参りもしていないのに、もう呑んでるんですか?」



呆れたといった声音に振り返ると、宮司と氏子総代に挨拶に行っていたはずの日本が腕組みして立っていた。中国の手から空の陶盃を奪うと、近くにあった会議机に置いてしまう。そのまま手を引かれて、玉砂利の上を二人で歩いた。
参道を横切って檜皮葺の手水舎に着くと、濡れそぼった白木の柄杓がいくつも並べられている。日本が柄杓に水を受けて、左右の手にかけ、次いで口を濯ぐ。中国はその様子を何とはなしに見ていた。普段は信心などカケラもないような顔をして暮らしているくせに、今日は随分としかつめらしい顔をしているのが不思議で仕方ない。



「ほら、中国さんも手を洗ってください」



「え、我もあるか? せっかく火にあたってあったかくなったのに…」



「神様にお参りする前には、身を清めなくてはいけないんです」



防寒着の袖からおそるおそる手を出して、中国はおざなりに水をかけた。水道ではなく地下水を汲み上げているという神社の水は清冷で、口に含むと歯に沁みるほどだ。また赤くかじかんでしまった指先を日本の差し出した手拭で拭き、手のひらで摩擦する。
小さな社ではあるけれど、深夜の初詣客はそれなりに多かった。列に並んで五分ほどで、やっと本殿の前に到着する。御影石の敷かれた参道は容赦なく足元から熱を奪い、膝が痛むほどだった。
夥しい蝋燭の炎に照らし出されて、社殿は通常は見せない白木の内部を曝していた。炎の揺らめきが梁や壁に映り、かすかな風で白一色の紙飾りがはためく。壁際を埋め尽くすように酒樽や一升瓶が並んでいる。中央に備えられた一尾の鯛の目の中で、細い炎がいくつも揺れる。神聖というよりも得体の知れない恐ろしさを感じて、中国は唇を引き結んだ。



墨で文字の書かれた色とりどりの布の束を掴んで、日本と一緒に鈴を鳴らす。見よう見まねで、前の参拝客がしていたように二回礼をし、二回手を叩いた。薄気味悪くはあるけれど、どうせだからと家内安全・商売繁盛・無病息災と念じておく。一礼して隣を見れば、日本はまだ目を閉じていた。その前髪が風になびくように、微かに揺れる。中国は瞠目した。日本の黒髪を掬った白い指先は、瞬きの間に霞となって本殿に消えた。

 










寒い寒いと焚き火の側にまた舞い戻って、二杯目の御神酒を呷る。今度は日本も隣に立って盃を傾けていた。冷気で固まった膝を少し曲げ伸ばししてほぐす。首もぐるりと回してみれば、杉の梢の先に光る北斗七星が見えた。



つい、と着物の袖を引くと、何ですか中国さん子どもみたいに、と日本がこちらを向く。口調とは裏腹に、黒目がちの双眸は優しい色をしていた。



「日本は何をお願いしたあるか?」



「それは秘密です」



「ケチあるな。我にも教えてくれんあるか」



「ガス田くれたら教えてあげますよ」



「そ、それはズルイある!」



顔を背けてしまった弟だけれど、袖を掴んだ指先は振り払われないままだった。炎の照り返しを受ける赤い頬を見つめて、中国はくすくすと笑った。



「何笑ってるんですか……」



「秘密ある~」



「もう……いつまでたっても子どもみたいな人ですね」



やれやれとため息をついてみせる日本の手を捕まえて、自分の掌でくるみ込む。



「新年好、日本」



新しい一年がお前にとって幸せなものであるように。



繋いだ手に持てるだけの想いを込めて、中国は言葉を紡いだ。

 

 




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何年か前、よその大学で留学生の人たちに日本のお正月の感想を聞きました。
深夜に初詣に行った人がかなりいて、その人たちの感想が



「カウントダウンとかで騒がなくて、厳粛な雰囲気だった」
「神社の御神酒がおいしかった」
「鐘を撞いたのが楽しかった」
「神社が気味悪くて怖かった」



などでした。神社を怖がってたのは中国・韓国からの学生さんが多かったです。
欧米系の人たちは大体の人が「楽しかった」と答えてました。
南米系の人は仲間内で集まってカウントダウンをしたそうですし、イスラム系の人たちは普段どおり家にいたようでした。
それと、「年越しの瞬間はコンビニでレジ打ってました」という人も。ご苦労様です!


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