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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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イギイギ掛け軸 (英、希、中)

英→日風味です。お嫌いな方はご注意くださいね。
中国さんもけっこう胃がキリキリするような目に遭ってます。


















薔薇のアーチの向こうで、猫の鳴き声がする。



テラスでアフタヌーンティーを味わっていたイギリスは、椅子にかけたまま、突然の来訪者を眺めやった。
背の高いたくましい体格なのに、どこかふわふわした歩き方で、彼は小道を辿ってやってくる。



「イギリス…おじゃまシマス」



「お前な、来るときは事前にアポを取れよ」



出張中とかだったらどうするんだ、と。イギリスの言葉に、しかしギリシャはとろんと眠たげな表情のまま、小首をかしげただけだった。






「しかし珍しいな、お前がうちに来るなんて」



まぁ座れ、と向かいの椅子を勧め、イギリスはメイドに新しいティーカップを持って来させる。
温められた白磁のカップに熱くしたミルクを三分の一まで入れ、そこへゴールデンチップたっぷりのアッサムタイガーを注ぐ。立ち上ったえもいわれぬ芳香に誘われるように、客人はさっそくカップを両手でくるみこんだ。



「いいにおい……」



猫舌なのか、息を吹きかけながらちびちびと飲む仕草は子どもっぽい。
そういえばアメリカも昔こんな風にしていたな、と思い出して、イギリスはわずかに目許を緩めた。



「ワッフルもあるぞ、食べるか? ……なんだよ、その目。ちがう、ベルギーからの貰いモンだ」



どうしてこうも自家製の食べ物は信用がないのだろう。









ひとしきりお茶を飲み、お菓子を食べたあと。



「そうだ、本題……」



呟くと、ギリシャは黒猫のイラストが描かれた手提げ袋から、細長い包みを取り出した。
紗の風呂敷を取り払うと、中には濃緑の掛け軸が一幅。



「これ……日本から…預かってきた」



「に、日本から?」



こくりと頷くと、エアメール用の封筒を添えて、掛け軸をイギリスに押し付ける。
緊張に汗ばむ指先で、“親愛なるイギリスさんへ”という文字をなぞる。たしかに、日本の筆跡だ。
イギリスは胸を高鳴らせながら、中からオニオンスキンを取り出した。






『あなたのお心に留めていただきたくて、この詩をしたためました。
 いつでもこの掛け軸をお傍に置いてくださいね。

                           友情をこめて  日本』






丁寧な筆記体で綴られた、短いその言葉を何度も読み返す。



(お心に留めていただきたくて……?)



友情をこめて、というところが自分としては嬉しくも少し複雑ではあるが、しかし…………



(いったい日本は俺に何を伝えようとしているんだ?)



掛け軸を見ればわかるだろうかと、紐を解いて広げてみた。
濃緑の布地に、白く美しい和紙。書類の紙二枚分くらいの、コンパクトなサイズのものだ。毛筆で五文字×四行の漢字が書かれている。この形式はたしか、中国の詩だ。
中国語が不得手で、しかも東洋の伝統的な文学作品のことなどわからないイギリスには、書かれている内容が読み解けないのだが……。






「イギリスへの……オモイノタケを、日本が書いた、って…」



「お、思いの丈?!」



ギリシャの眠そうな声に、イギリスの手が大げさに震える。
思いの丈……おもいのたけ……オモイノタケ……頭の中でリフレインが止まらない。



(日本が、俺に?!)



思いもよらない方法での不意打ちに、どう反応していいのか、激しいステップを踏む胸を押さえて、イギリスは乱れそうになる呼吸をどうにか整えようと躍起になった。
そんな彼の様子など知らぬ気に、ギリシャは言葉を続ける。



「ほかのたくさんの人に、読まれたら……、はずかしい。から、漢字で…書いた」



(た、たしかに、日本は恥ずかしがりだ……)



彼なら、愛の告白をストレートに表現することなどとてもできないだろう。
古代の詩に恋心を託して、そっと想い人に届ける……。ひかえめで奥ゆかしい彼に、なんと似合いの方法であることか。



(って、ええええぇぇぇぇ?! この場合、想い人って、想い人って……!!)



ティーテーブルの上に置かれたイチゴジャムを塗りたくったかのように真っ赤な頬を、もはや隠すことも考えられないまま、イギリスは八方に視線をさ迷わせ、身体を震わせた。できることならここから走り出して、丘の芝生の上で転げまわりたい。甘酸っぱい気恥ずかしさで、どうにかなってしまいそうだ。
何かの病にかかったかのように小刻みに震える手で、なんとか掛け軸を巻き直し、風呂敷に包む。すっかり冷えてしまったカップに、これもまた冷めた紅茶を注いでいっきに呷る。不作法甚だしいが、そうでもしないと落ち着かれなかった。



ギリシャは伸びをし、あくぁ、と猫のようなあくびをした。テーブルの上の便箋を取ると、イギリスの許可も得ずに目を落とす。



「これ英語。…なら、オレも読める……」



「ちょ、おまえ勝手に」



「日本の言い方、すごく……ひかえめ。求肥にくるんでる……」



八割引きくらい。
眠そうなつぶやきのきっかり一秒後、瀟洒なテラスの一角で、ひとつのカップが床と情熱的なキスをした。








 ※ ※ ※ ※ ※ ※ 









「と、いうわけだ」



「何が『と、いうわけだ』あへん……」



ロンドンでの会議の前にいきなり捕まえられ、控え室に引きずり込むから、何事かと思えば。
中国は目の前の礼儀知らずを、それはもううらめしげに睨んだ。
かわゆい弟がこんな阿片ヤローに贈り物をしたなどと、それだけでも許しがたいのに、こいつはそれを自分に読み解かせようというのか。



「よりによってこんなのがいいだなんて…我はそんな趣味の悪い子に育てた覚えはないある…。何かの間違いある、そうに違いないね…」



「何ぶつぶつ言ってんだよ、気持ち悪ィな」



「しかも何で我にわざわざ読ませようとするあへん! 嫌がらせあへん!」



悲しみで腸が引き裂かれてしまいそうだ。眦にたまった涙を袖で乱暴に擦ると、中国は洟をすすった。ソファの上で、アラン編みのクッションを膝に抱えて背を丸める。
イギリスの家にだって中国文学を研究する学者だとか、情報機関に身を置く分析家だとかがいるのだから、そちらに頼めばいいだろうに。なぜそうしないのかと尋ねると、阿片は掛け軸を腕に抱いたまま遠い目をした。






「もちろん、最初はそいつらに頼んださ……。だけどな!」



ある者は、『なんとも難解な詩ですな。解読にはかなり時間がかかりそうです』と言ったきり。
またある者は、『こ、これは……とても私からは申し上げられません』と、真っ赤になった顔を両手で蔽い、部屋を走り出て行ってしまった。
そんなに情熱的な愛の言葉なのか。しかし意味は分からないまま。知りたい。しかし自分ではわからない。くれた本人に聞くのも野暮であるし…。



「そんなわけで、もうお前しかいないんだ」



ずずい、と凶悪な表情で詰め寄られて、中国は顔をしかめた。後ろに背もたれがあって逃げられない。心中で自身の不覚を嘆くが、あとの祭りである。



「この掛け軸に、日本の思いの丈が籠もってるのはわかったさ。けどな! 詩の内容が気になって気になって、もう三日も寝てない!」



「顔近づけんなあへん! 叫ぶなあへん!」



クッションでぐいぐいと押してイギリスの顔を遠ざけると、肩を弾ませて息をつく。かわゆい弟を誑かされたあげく、どうしてこんな目にまで遭わなければならないのか。道観にでも行って魔除けのお札でももらってきたほうがいいかもしれない。



「わざわざ俺のために書かれた詩……なのに、その意味がわからないとあっちゃ、かっこわるくてしかたないじゃねぇか! 『教養のない人ですね』なんて幻滅されでもしたら、大英帝国の名がすたる」



「素直に『日本からの愛の言葉の意味を知って両想いなのを確信したい』と言うあへん」



とたんに、イギリスは歯車の外れた自動人形と化し、高速で妙な動きを始めた。



「なっ、ちが、ちっ……違うっ妙な勘違い、すんなよ……!!」



「違わないあるよなぁ? 顔に書いてあるあへんー」



唐辛子のような色になった顔を隠しながら珍奇な踊りを披露する若造をひとしきり眺め、中国はなんとか腹に渦巻く感情を収めた。そろそろいい時間でもあるし、議場に入らないとまずいだろう。



「あと少しで会議が始まるあへん。はやくブツを見せるね」



「よ、読んでくれるのか?!」



ぱっと顔を上げたイギリスに、仕草で掛け軸をよこすよう要求する。手のひらに載せられたそれの紐を解くと、中国は覚悟を決めて一気に広げた。



白地に雲母で地模様を漉き込んだ上等の料紙に、端正な楷書で五言絶句が記されている。たしかに弟の筆跡だが……。



「ええと、これは……」






一杯人呑酒
三杯酒呑人
不知是誰語
我輩可書紳






これは、どう見たって愛の詩などではない。
なまめかしい閨怨詩や、初々しい初恋を詠んだ民謡が書かれているものと思っていたものが……。
中国は呆然と、並んだ文字を見つめた。口の中がカラカラに乾いて、舌は固まって動かない。



「な、なぁ、どうなんだ? なんて書いてあるんだよ?」



そわそわと落ちつかなげにイギリスが急かす。薔薇色に上気した頬。まったく初心な様子のクソガキは、期待に目を輝かせて、さぁ早く意味を教えろとばかりにこちらを見ている。






(なんで……なんで我が、こんな目に遭わなきゃいけないあへん……!!)



よじれ踊り出そうとする五臓六腑を必死でなだめながら、中国はこの詩を正しく解説してやるべきか、それとも逃げ出すべきなのか、激しく悩んだ。

 

 

 

ハジメハ人ガ酒ヲ呑ミ
シマイニ酒ガ人ヲ呑ム
誰ノ言葉カ知ラネドモ
呑ンベハ肝ニ銘ズベシ

 

 



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「(ギリシャやポーランドの)イギリスへの(腹に据えかねる)思いの丈を、日本が書いた」んでした。ギリシャからイギイギについての相談を受けたものと思われます。
かつて同盟を組んだ友人に対しての、友情を込めた忠告の詩ということで。



使ったのは『酒人某出扇索書(酒人某、扇を出して書を索む)』という詩です。
作者の菅茶山は、江戸時代後期の儒学者です。酒席で酔っ払いから扇子に何か書いてくれとせがまれて、閉口してこの詩を作ったのだとか。
漢詩の和訳は、松下緑氏の訳を使わせていただきました。



【書き下し】
一杯 人が酒を呑み
三杯 酒が人を呑む
是れ誰の語か知らざれど
我が輩は紳に書すべし



「書紳」は、簡単に言えばメモをすることです。『論語』の「衛霊公篇」にみえる言葉で、孔子が弟子の子張にやたらと長い教えをたれたので、子張はその教えを紳(幅広の帯)の端に書き込んだそうです。



以上、『サヨナラダケガ人生カ』(松下緑/集英社)より。






ギリシャはわざとなのか天然なのか。言葉を略してしまうと、コミュニケーションに思わぬ落とし穴ができてしまうものですよねw
いいように勘違いした妄想紳士にはかわいそうですが。
詩の意味をおさえた上で、もう一度、今度はギリシャの言葉に主語を補いながら読んでいただければと思います。



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