銀星糖
こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。
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【柚本本舗】さまへの献上品(下)
柚本さまへの献上品です。お正月ものですが、まだ一月だからセーフですよね?
長くなりましたので、前後に分けました。
(後編)
積もった雪の表面が太陽の熱で濡れた輝きを放ち始めた、午前十時。
「日本、来たぞ!!」「ばか、まず挨拶しろって言っただろ?!」「新年好、にほ~~んv」
一番乗りのアメリカを先頭に、イギリス、中国などなど。
どやどやと上がりこんできた騒がしい顔ぶれにため息をつく。Buon Anno! と日本に抱きついて頬にキスしているイタリアを引っぺがしてやりたい。
「んんー? スイスってばご機嫌ナナメだなぁ」
「我輩の機嫌がわかるのならば、こやつらを連れて今すぐ帰るがいい」
貴様のニヤけた顔のせいで、新年の淑気も濁るのである。
スイスは丹前の袖を組んで不機嫌に口元を引き結んだ。もうちょっと余裕持ってろよ、と笑うフランスを目の端で睨みつける。
「で、夜は頑張ってたのか?」
「昨夜か? 二人でソバを食べて、鐘を撞きに行ったが」
頑張るとは、さて一体何を? 怪訝な顔をするスイスの前で、ヨーロッパの不埒な兄貴分はやれやれと肩を竦めた。
「日本って国の伝統は奥深いんだぞ。新年には実に様々な儀式があるんだ。ちょい耳貸してみ?」
肩に手を置き、少しかがんでフランスはスイスの耳許に唇を寄せる。心地いい低音の囁き声は、中庭から響く相変わらずの騒がしさにもかき消されずにスイスの鼓膜を震わせた。
「これをせずに帰れねぇだろう? スイスくん」
ケケケと妙な笑い声を立てる男の顔に、置いてあった濡れ布巾をぶつけて、スイスは踵を返す。
中庭ではそろそろ競技の支度が整ったようだ。日本が黒い液体をなみなみと張った深皿を抱えて、今しも競技説明を始めようかというところである。
「スイスさん、ほらフランスさんも、早くいらしてください。説明始めますよー」
いつ出してきたのか、庭には座布団を置いた長椅子が四脚用意され、三人ずつが座れるようになっていた。一番前に陣取ってワクワクしている様子のアメリカとイタリアに挟まれて、ドイツがげんなりした表情で座っている。ギリシャとトルコはロシアを間に挟んでそっぽを向いているし、その後ろでは騒ぐ韓国を押さえつけながら中国とイギリスとが嫌味の応酬だ。一番後ろに何故か居るプロイセンの横にスイスとフランスが座る。
全員が席に着いたのを見て取ると、日本はちょうどステージに上がるように濡れ縁に立った。
「本日は元旦からお集まりいただき、誠にありがとうございます。ではこれから、第一回羽根突きワールドカップを開催いたします!」
「「「イエーー!!」」」
アメリカとイタリア、そして韓国は早くもノリノリである。
日本はそんな三人にふっと笑う。杉板の雨戸に画鋲で張り出されたトーナメント表と、ルール説明の模造紙を真新しい筆で差すと、朗々と声を響かせた。
「ルールは簡単、羽根を打ち合い、先に落としてしまったほうが負けです。一回落とすごとにペナルティー」
深皿に筆をつっこんで、黒々とした滴をポタ、と雪に垂らしてみせる。
「これで、顔に一筆ラクガキをされることになります。本来なら墨を使うのですが、肌荒れを考慮して今回は黒の顔料と化粧筆を用意しました。先に五回羽根を落とした方は敗北。勝者はトーナメント表に従って次の試合へ駒を進めます」
みかん箱で作った卓の上に顔料と筆を置き、今度は菓子缶を持って日本は参加者を見渡す。
「十二名ですから、今回は二組がシードとなります。A組とF組の方は一試合少なくなりますので。では、前の方からご順にクジを引いてください」
赤いクッキーの缶から、ちぎって折りたたまれた半紙を取る。Bだ。スイスは席を立って、サインペンでトーナメント表に名前を書いた。
隣に書かれたのは、UK。イギリスだ。負ける気はしないが、油断はせずに全力で潰そう。今日は少しといわず機嫌がよろしくないスイスである。
縁側の端に置かれた賞品の山を物色しているフランスが、「酒ばっかりじゃねぇか」とため息を洩らす。
「俺の持ってきたシャンパーニュだろ。黒ビールに、紹興酒、人参酒、スコッチ、ウォッカ……。アウスレーゼはプロイセンか?」
他は、大量のチョコバー。オリーブオイル。チャイカップとソーサーのセット。額に入れられた油絵はイタリアの作だろうか。そして、北海道産チーズ詰め合わせはまさか自分の分なのか。
「こんなにお酒がいっぱいじゃ、どうあってもイギリスだけは優勝させちゃいけないね! ヒーローとして、俺が優勝すれば万事解決さ!」
「ドイツ~日本~、ちゃんと応援してね? 俺がんばるから!」
アメリカは羽子板を突き上げて早くも優勝宣言だ。セーターを腕まくりして、必勝ハチマキまで締めている。ドイツとトルコ、ギリシャが長椅子を片付けてスペースがあいた庭に立つ。相対して羽子板を構えるのはイタリア。第一試合はこの二人らしい。珍しくイタリアの腰が引けていないのは、スポーツ勝負だからだろうか。
「第一試合の審判は中国さん、お願いしますね。私はお茶とお菓子を持ってきますから」
「了解ある~。それでは第一試合、両者位置につくよろし!」
チャイナの袖をからげて、中国が手を挙げる。韓国はハンディカムのレンズをチョゴリの袖で一拭きして、試合を録画する気まんまんらしい。
スイスは台所へ向かう日本のあとについて庭を離れた。十三人分の茶菓子とお茶を運ぶのはかなりの大仕事だ。
台所に着くと、お湯の詰まったポットが二つと人数分のマグカップや湯のみ、コーヒーに紅茶、日本茶、プーアル茶のティーバッグなどがすでに出されていた。肉まんをレンジで温めながら、日本は栗羊羹を包丁でスライスして皿に載せていく。まな板の横にういろうとロールケーキが置かれ、切り分けられるのを待っている。スイスは煎餅やビスケットなどの茶菓子を戸棚から出した。封を切って大き目の盆に盛り、ついでテーブルの上に置かれていた箱を開ける。入っていたのは色とりどりのマカロンだ。それを見て、スイスは先ほどのフランスの言葉を思い出した。
「日本、ひとつ聞いていいか」
「はい? なんですかスイスさん」
「ヒメハジメ、とは何だ?」
ぐ ち ゃ 。
日本が手に持ったういろうが潰れた。まな板や作業台の上にピンク色の残骸が転がり落ちる。包丁を構えたまま振り向いた日本はいつもの笑みを浮かべたままだったが、スイスの鷹の目はその耳の赤さを見逃しはしない。まったく何も知らぬ風を装って、スイスはさらに言った。
「日本で元日未明、または夜に行われる重要な儀式だとフランスが言うのだが。どんな内容なのだ?」
小首を傾げて問うと、珊瑚の唇からあー、やら、うー、やらと声が洩れる。次第に目元や頬にも赤みがさして、日本は俯いて肩を震わせた。
「日本……? 教えてはくれぬのか?」
「…………もし、スイスさんが」
俯いたまま、ぽつりと零される呟き。聞き漏らすまいと、スイスはすかさず日本の傍らに寄る。
「スイスさんが、そのお顔にひとつのラクガキもされずに優勝なさったら、教えて差し上げます」
「本当だな?」
約束だぞ、と念を押して、スイスは日本の手首を捕まえた。指に付着したういろうを舐めると、可愛らしい悲鳴が上がる。今すぐここで全部食べてしまいたいくらいではあったが、やはり邪魔者がすべて帰った夜のほうが何かと都合が良いだろうと、スイスは衝動を抑制した。何事も適確な状況判断が大切なのだ。
「お、お手伝いはもういいですから、試合に行ってきてください。次でしょう?」
「ああ、そうであったな。さて、第一試合はどちらが勝ったのやら…」
中庭からはぎゃんぎゃんと騒ぐ声に、何人かが爆笑する声。まったくかまびすしいものだ。暖簾をくぐって廊下に出ると、ギリシャとトルコがこちらに歩いてくるのが見えた。普段は寄ると触ると喧嘩になる仲の悪い二人なのに、今は揃って肩を波打たせ、喧嘩どころではないような様子である。
「……ぷくっ、す、スイスの番……きてる。呼びに、きた……っふ……」
ギリシャは大爆笑寸前なのをなんとか堪えてそれだけ言った。訝しみの表情を読み取って、トルコがあとを引き取る。
「いや、さすが芸術の国だけあるっつーか、イタリアが傑作を作ってよ……お前さんも笑いすぎて試合に負けねぇように、気ぃつけるこった……フッ……」
そこで傑作とやらを思い出したのか、トルコは仮面を押さえて台所に駆け込んでいった。そのあとをギリシャも追う。とりあえず日本の手伝いは二人に任せてもいいらしい。
角を曲がると中庭に面した廊下に突っ伏してピクピクしているフランスと中国が目に入った。その横でイギリスは目を背けて靴紐を結びなおしている。イタリアはドイツの背中に隠れているし、韓国は涙を拭いながらもカメラを回している。そして、プロイセンがデジカメで何かを連続撮影している。レンズが捉えているのは、笑顔のロシアに羽交い絞めにされながらじたばたともがいているアメリカだ。
「ひどいよひどいよ! みんなひどいよぉ! ロシアも放してくれよヤダヤダぁ!」
「やだなぁ、アメリカくんったら。君が暴れなければ僕が押さえてる必要もないんだよ?」
見ればアメリカの眼鏡がいつの間にか黒ぶちになっている。いや、黒ぶちではなく、顔に直接メガネ型が描かれている。
それだけでもおかしいのに、さらに奇怪なことには、細くキリリと整っているはずのヒーローの眉が、黒の顔料でごんぶとにされていた。
スイスは他の国々のように笑い出したりはしなかったものの、思わずまじまじと見つめてしまった。確かにこれは笑撃的だと、深く納得する。頷いてないで助けてくれよスイスぅ! とアメリカが叫んだ。踏み固められた庭の雪がブーツの爪先で削られて飛び散って、下の玉砂利がほんの少し顔を出した。
「おいフランスよ、これ焼き増ししてスペインにもプレゼントしてやろうぜ」
プロイセンの提案にもフランスは答えず、代わりに痙攣がいっそうひどくなった。中国のほうはもうぐったりとした状態で、そのままぽっくり逝きやしないかと少し心配になってしまう。ドイツがサインペンを取って、トーナメント表に[5-2]と書き込んだ。
「では、5-2でイタリアの勝ちだ。中国が審判続行不可能なので、次の試合は俺が取り仕切らせてもらう。……スイスとイギリス、前へ」
コールがかかり、スイスはツッカケを履いて庭に下りた。鼻の下に不似合いなカイゼル髭を描かれたイタリアから猪鹿蝶の羽子板を受け取り、何回か振ってみる。肩をぐるりと回して正面を向けば、イギリスが闘志を漲らせた表情で羽根を握り締めていた。こちらはアメリカの使っていた松竹梅の羽子板だ。
「お前とはいつか勝負しなけりゃとずっと思ってたぜ、スイス」
「ああ、我輩もだ、イギリス」
先ほどまでの騒ぎの余韻を払う冬将軍の風が、庭先に吹いた。まるで巌流島の武蔵と小次郎のように、二人は羽子板を構える。
「英国紳士として、お前のようなムッツリスケベに負けるわけにはいかねぇ」
「こちらこそ、執念深く他人の恋人を付け狙うエロ大使なんぞにむざむざと負けてはやれぬな」
イギリスの口元が、わずかに引き攣った。翡翠の瞳が嫉妬と怒りで爛々と光り始める。
スイスの唇が弦月を象って吐息を零した。挑発の言葉にたやすく乗せられるとは、イギリス、敗れたり。
廊下の奥からトテトテと軽い足音がやってくる。角を曲がる辺り、十分に声が聞こえる位置と判断したところで、スイスはサーベルを構えるときのように羽子板をイギリスに向けた。
「無傷で優勝すれば、恋人だけに贈られる特別賞与が出るのでな。たとえ誰が相手でも、負ける気がせんのである」
猫が戸板に突っ込んだときのような悲鳴を上げて、縁側で日本がつんのめる。トルコが曲芸じみた足捌きで宙に舞ったお菓子の皿を受け止めた。顔を真っ赤にした愛らしい恋人にひとつ目配せをして、そして、スイスはフフンと笑ってみせる。その余裕の勝利宣言に、イギリスの闘志もまた燃え上がったようだ。
「させてたまるか! お前の眉毛もアメリカとお揃いにしてやるぜ!!」
「では、はじめ!!」
ドイツが手を振り下ろして、試合開始を宣言。イギリスが左手でトスする羽根に、全員の視線が集束する。
男スイスの今年一番の大勝負が、いま始まった。
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こんなもので柚本さまの美麗イラストを手に入れた自分の詐欺の腕をほめてあげたい(殴)
リクエストは瑞日or英日とのことでしたので、今回は瑞日ベースにオールキャラにしてみました。
こんなにいっぱい登場人物使ったことなかったので、かなり持て余し気味です。
アメリカの顔にラクガキいっぱいしてしまって、アメリカファンの方には申し訳なく……
私は彼をいじめるのが大好きです。彼が不憫な目、ひどい目に遭ってるのが大好きです!!
そんなわけで、これからも銀星糖では全力でアメリカをいじめます。愛ゆえに!!
柚本さま、本当にこんな拙宅と相互してくださって本当にありがとうございました☆
これからもご迷惑をおかけすると存じますが、末永くよろしくお願いいたします。
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