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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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Mr.ショウシャマン

いまは昔、高度経済成長期のころのお話です。












 


「どうしても不可解なことがあるんだ」



コーラのグラスを置いて、アメリカが話し出した。



中南米の共産ゲリラの情報収集でさ、担当部署の人員を各国に配置してるんだ。
彼らの仕事は信頼してるさ、けどどうしても腑に落ちないことがある。
…………みんな報告書で「Mr.ホンダにお会いしました」「Mr.ホンダをお見かけしました」って言うんだよ。
おかしいと思わないかい? 日本は一昨日も一昨昨日も会議でワシントンに居たはずだ。遅刻だってしなかった。
七日前はロンドンで君と会ってたはずだよね。その前は国内行事だとかで忙しくしてたはずだし。いったいいつアンデスの寒村や熱帯雨林の真ん中で俺の部下と出会えるんだろう? そんなヒマがあったとは思えない。
自慢じゃないけど、俺は東京に何百人も情報提供者を持ってるんだよ。三日に一回は報告が来るようになってて、総理大臣が胃薬を何錠飲んだとかまでわかるくらいなのに、日本がいつ南米へ、何の目的で行ったのか、そこがわからないんだ。外交目的なら外務省に仕込んだヤツから情報が来るはずだから、余計怪しいんだよ。







イギリスは紅茶のカップを置いて、頷いた。



お前も知らなかったのか。実は俺も、日本の動きが気になってる。
七日前の夕方、あいつはロンドンに来た。会食に出席するためだ。次の日の朝にはどこにいたと思う? 北アフリカの小島だ。また次の日は南洋の島のジャングルの中。先住民の村に行く日本がガイドを雇ったという情報が来た。何のために? そこがわからない。現地の駐在員に調べさせてるが、どうやら商用らしいとしか言わないんだ。









フランスも発泡水のグラスを弄びながら言う。



俺もさ、こないだ元植民地の独立何周年記念式典に行ってきたんだよ。まあ様子見って感じだ。
そしたら日本がその国にいたんだよなぁ。式典に出てたわけじゃない。商用だっていうんだけどさ。あんなところで何を売り買いするんだ?










ドイツも書類をたたんで加わる。



学術調査のために、うちの学者たちがヒマラヤの麓に行ったんだ。そこでも日本に会ったらしい。現地の者たちに渡りをつけたりしてくれて、かなり助かったと言っていたな。しかし、どうして日本がそんな辺鄙なところに居たのかはまだわからない。










我輩も、銃を磨く手を止めた。



我が国の銀行マンが職務で東側の某国に赴いた際、そこでも日本を見かけたと言っていたぞ。何をしにきていたのかはさっぱりわからなかったそうだがな。特にきな臭い感じがしたとは聞かなかったから、いままで警戒していなかったのだが。




 

背中がゾワゾワと粟立った。
いざ並べてみれば、なんとも見事な神出鬼没ぶりである。かの講和条約以来、日本は一貫して経済偏重、国防は若造に丸投げ、防諜に関しては『なにそれ? おいしいんですか?』という状態だと思っていたのだが。この件に関してアメリカにすら尻尾を掴ませないとは、よほどの秘密が隠されているに違いない。

 





 

 * * * * * 

 

 





コンコン。



「失礼します。Mr.ジョーンズ、Mr.ホンダの件なのですが……」



「何かわかったのかい?!」



「え、ええ……。どうかされたんですか皆さん?」



上司の執務室に入ったなり、その部屋にいる全員から鋭い視線を浴びせられて、Ms.ブランシュは驚いた。いずれも国際会議でよくアメリカを訪れる重要人物だ。自分はMr.ジョーンズの部署に入ってまだ一月だが、もう何回も顔を合わせている人もいる。何かまずい事態でもあったのかと、肩がこわばった。



「ん? ああ、みんなも聞きたいらしいから、言っちゃってもいいよ」



笑顔で促されて、Ms.ブランシュは急いで書類をめくる。



「は、はあ。では、ご報告いたします。さきほど上がってきた情報によりますと、Mr.ホンダはニューヨーク時間で昨日午前10時ごろ、グリーンランドからアイスランドへの定期便に搭乗してレイキャビクへ向かわれたとか」



「「「「グリーンランド?!」」」」



「…………そんなところへ、奴はなぜ行っていたのだ?」



一際眼光鋭い軍服の男に睨まれて、文官である彼女はもう腰が抜けそうだった。
ああ、はやく自分のデスクに帰りたい。帰って書類に埋もれたい。嘘偽りなど微塵もなくそう思った。



「スイスってば、こんな可愛いお嬢さんを睨み付けちゃダメだろ」



「フランスこそ、俺の部下にやーらしい視線を向けないでくれよ。で? 彼は何の目的でグリーンランドへ?」



「は、はい! 現地の視察だそうですが……」



ちなみに、グリーンランドには亜鉛、銅、鉄、石炭、モリブデン、金、プラチナ、ウラン、氷州石などの鉱物資源のほか、魚介類、アザラシ、クジラなどの海洋資源がある。
そう付け加えると、上司の目が眇められる。Ms.ブランシュは涙を堪えるのに必死になった。

 







 

 * * * * *

 







 

「……うん、ご苦労様。引き続き情報収集よろしくね」



もう行けとばかりにアメリカが手をヒラヒラさせると、秘書らしき彼女はあからさまにホッとした表情ですぐに退室していった。スイスの顔が凶悪だから怖かったのだろう。



アメリカが執務机の上の電話を引っ掴む。短縮ダイヤルの二番を押して受話器を耳に当てるが、一分待っても相手は出ない。



「やっぱりいないよ! いったい日本はどこを、何のために飛び回っているんだい?!」



「俺たちに聞いたって仕方がないだろう?」



「知ってるさそんなこと。だから本人に尋ねようと思ったのに!」



いくらアメリカに甘い日本といえど、もしそれが国家機密に関わることならばそうやすやすと教えてなどくれないだろうに。だいたい、怪しい動きをしている者に対して、『君は一体何の目的でそんな怪しい行動をしているの?』などと面と向かって訊くやつがあるか?
このあたりが、兄弟といえども性格の違いが出ている箇所だ。イギリスだったら絶対しない。時間がかかっても、自力でこっそり調べるはずだ。疑わしい人物の自己申告なんて信じるほうがどうかしているのだから。



「やっぱ気になる……。決めた、日本に会いに行こう!!」



「な、なんだって?!」



アメリカはジャケットをコート掛けからひったくると、部屋を飛び出した。落ち着け! とか叫びながらイギリスやドイツが後を追う。



「で、貴様は追わんのか」



「んー、ウランってとこが引っかかるかな。いろいろアブナイご時世だしぃ?」



「そのたるんだ話し方はやめろ。常々思っていたが気色悪い」



我輩も行ってくる。貴様は好きにしろ。
小銃をひっさげてソファから立ち上がると、スイスは開け放たれた扉をくぐって出て行った。俺はというと、ぬるくなった発泡水のグラスを相変わらず弄んでいる。あいつらみたいに猜疑心トゲトゲさせるのは好きじゃないんだな、コレが。
そろそろ昼だし、さっきの子、ランチに誘ってみようか。

 

 





 * * * * *

 






 

伊『えー、日本? こないだ一緒にナポリの観光したよぉ? 兄ちゃんも一緒にー。楽しかったよ~ドイツも来ればよかったのに~』



希『大理石と葉タバコ、買ってくれた……。あと、遺跡の観光もした……。今度はタンカー、持ってきてくれるって……』



瑞『医薬品、買い付げに来だべ』



芬『うちには木材とコバルトを買いにいらっしゃってますねー』






軍用機の到着を待つ間、俺は空軍基地の電話から暗記している限りの電話番号にコールしてみた。そのうち、ここ二週間のうちに日本が訪れた国は以上の四カ国。
本当にいろんな国を飛び回っているんだな、日本。君が嘘を吐かないのは知っているから、俺としては本当に商用なんだろうと思っている。
だが、アメリカはそうではないようだ……。



「だって、俺に内緒でウランを買っていたらどうするんだい? 核を持つのは俺だけでいいよ!」



「ロシアだってイギリスだって持っているだろう……。それに、原子力発電所で使う分とか、大学や企業での研究目的とか、色々あるだろう」



「そもそもウランじゃなく他の物を買いに行ってた可能性の方が高いだろ。日本がリスクをおかしてまで核を持ちたがるとは思えない」



反論にそっぽを向いて、アメリカはコーヒーの入っていた紙コップを握りつぶす。ゴミ箱へのシュートは見事な放物線を描いて外れた。ティーバッグの紅茶がまずいのかイギリスは機嫌が悪く、スイスは相変わらずの仏頂面だ。何だかんだで場の空気を多少はゆるくさせるはずのフランスは、来ていない。



滑走路に入ってきた機体を眺めながら、胃の辺りをさする。すまない日本、俺は本当に商用だと信じている。が、君がヒマラヤでいったい何をしていたのか気になるのもまた事実なんだ。

 








 * * * * *

 







 

十三時間後、在日米軍の基地に飛行機を置いて、俺たちは日本の家の前に立っていた。ファーストクラスに慣れた俺にとっては、軍用機でのフライトなんか初めてだ。体中が痛い。機内食は軍用携帯食だし最悪だ。



「軟弱者め、鍛練が足らんぞ」



「チーズ食って金勘定して銃いじってりゃいいお前とは違って、いろいろ忙しいんでね」



「おーーーい、にほーーーーん!!」



近所迷惑も省みず叫ぶアメリカ。雨戸も閉まっているし、留守だろうどう見ても。
スイスは敷地周りを一周すると言って垣根に沿って歩いていった。すぐに角を曲がって見えなくなる。お前なんか天狗にでも浚われてろ。
ひとつ息を吐いて、門柱に寄りかかる。さてこれからどうするか。明後日からジャガイモ野郎のところの外務省と折衝するんだっけか? 勢いで極東まで来てしまったが、仕事の準備もあるしゆっくりしてはいられない。



「おや皆さん、お揃いでどうされたんですか?」



「早く帰らないと明後日からの仕事が……」



「もう帰ってしまわれるのですか? 残念ですねぇ……」



「「「日本!!?」」」



「はい。こんにちは」



振り返ると、そこにはスーツ姿で旅行鞄を提げた日本が立っていた。ソンブレロと呼ばれるメキシコの色鮮やかな帽子を被り、首からカメラをぶら下げて。



「いったいどこに行ってたのさ!? 俺に何も言わないで!」



「アメリカさん、何をおっしゃってるかよくわからないのですが……」



アメリカの言い方はまるで、不倫旅行から帰ってきた妻を責める夫のようだな、とぼんやり思う。日本は首を傾げただけで特に怒りもしなかったが。



「なんだ日本、戻ってきていたのか。……その帽子は何なのだ?」



スイスも敷地をぐるりと周って戻ってきた。奴が銃を携行しているのに気づいて、日本が目を剥く。



「うちでは銃火器の携行は禁止なんですっ!」



そう日本が叫ぶなり、たちまち道の向こうから装甲車が魔法のように現れる。急ブレーキで停止した車から降りたのは、何人もの警察官と、そして、



「入国管理局の者ですが」



……やっぱり次からは、米軍基地経由じゃなく正規のルートで来よう。
六人がかりで連行されていくスイスを見ながら、俺は固く心に誓った。

 

 





 * * * * *

 






 

まぁとりあえず、と通された居間で、四人分の緑茶が配られる。スイスは日本が呼んだ警察官に連れて行かれた。銃なんか飛行機の中に置いてきたら良かったのにね。気づいてて言わなかった俺のせいだろうけどさ。ざまぁ。



「いや、まぁその、お前が世界各地で目撃されていることについて、各国からそのー、ええとだな」



「世界各地で目撃と言われると、なんだか謎の生き物が発生しているみたいでイヤですねぇ」



歯切れの悪いイギリスの口調に、また俺のイライラは募る。
ウフフと苦笑した日本は、熱い日本茶をすすりながら俺たちに真っ黒な瞳を向けた。
いったいこの瞳の中に、どれほどの秘密が隠されているのか。全部暴くつもりで、俺は日本を見つめた。



「で、いったいアマゾンの奥地やアンデスの寒村で何をしていたんだい?」



「商談です」



「何の?」



「何って……リャマやアルパカの毛織物とか。ダイヤモンドやボーキサイトなどの鉱物資源とか。木材とか。いろいろですよ」



何を当たり前のことを、という顔で、日本は俺たちを見つめ返す。瞳には一点の揺らぎもなくて、底なんか見えない。それが怖い。



「では、ヒマラヤの麓では?」



「化学肥料を売りに行きましたが。ドイツさんのところの学者先生にもお会いしましたよ」



「南洋の原住民の村には?」



「希少な植物のサンプルを採取しに」



「東側の某国には何を?」



「キャビアの買い付けに参りました」



すました顔で答える日本の声だって、嘘の響きなんかない。けど、それすらフェイクだったら? 本命を隠すために別のところでわざと目撃されてたんだったら?
こんなふうに考えるなんて、猜疑心はイギリス譲りかな。けど、俺にわからないような動きをする日本が悪いんだから。






「じゃあ……」



日本の顔をしっかり見る。視線で縫いとめるくらい。もしここでちょっとでも動揺があったら、とことん問い詰めなきゃ。



「グリーンランドへは、何を買いに行ったんだい?」



「エビですが」



「え…………え、び?」



ウランじゃなくて? 



ええ、エビです。日本はうきうきした様子で頷いた。



「我が国の人々はエビが大好きなので。自国で取れる分だけでは到底全国の食卓分をまかなうことはできないのですよ。グリーンランドならおいしいエビが買えると聞きましたので、本当なのかと現地まで飛んだ次第です」



取引の書類、ご覧になりますか?
と差し出された紙束には、日本とあちらの商社名が印字されていた。真ん中に大きく、『冷凍エビ売買契約についての云々』と書かれている。



肩と膝の力が一気に抜けた。エビだって!! まったく、人をハラハラさせるのもいい加減にしてほしい。
となりのドイツの肩にずるずる凭れかかると、嫌そうな顔で畳に転がされた。イタリアには何だかんだで好きにさせるくせに、ケチだなぁ。
イギリスはあからさまにため息をついて、日本に「すまん」と言った。



「このバカが変に勘繰ったせいで、不快な思いをさせてしまったな」



「ちょ、君たちだって日本があちこちに行ってるの怪しんでたじゃないか!!自分が日本に嫌われたくないからってずるいぞ!!」



都合が悪くなったら全部俺のせいにしようだなんて!! イギリスのくせに……!
日本は湯呑みを置くと、ふんわり笑った。俺の頭に手を置いて、髪をなでてくれる。やさしい石鹸の匂いがした。



「私、これでもアメリカさんのこと、すごく頼りに思ってるんですよ? だから安心して商売に精を出せるんじゃないですか」



「ほ、ほんとうかい……?」



「ええ。ですからアメリカさんも、私のことを少しは信用してくださいな」



日本の膝に頭を乗せて、お腹に頬を寄せるとあったかかった。スーツなのにお日様の匂いがして気持ちよくて、目がとろんってする。

 








 * * * * *

 







 

「まったく、このバカは…………」



寝入ってしまったアメリカさんを睨みつけて、イギリスさんは再度「すまん」と言った。別にアメリカさんのくっつきたがりはいつものことだから構わないのだけれども。



「しかし、私が各地を旅して回るのはそんな不自然なことですか?」



ドイツさんとイギリスさんは、気まずげな表情を見合わせた。悪いことを聞いてしまっただろうか。



「まぁその、アメリカの目をかいくぐっての神出鬼没ぶりが気になったというか、な」



神出鬼没とは大げさな。単に私はどこにでも行くし、どこにでも居るだけだ。商売人とはそういうものだ。



「商談なら街のオフィスでも事足りるのに、なんで辺境まで足を伸ばす必要があるのか? とか……」



「企業文化の違いでしょう」



アメリカさんの横髪に小さな三つ編みを作ると、先日出会った先住民のかわいい子どもを思い出した。次にあの村へ行くときは、何か可愛い髪飾りでも持っていこう。
顔を上げると、イギリスさんとドイツさんが納得いかなさそうな表情でこちらを見ている。
お揃いですね、眉間の皺が。
そう言うと、二人は余計にたて皺を深くしてそっぽを向いた。









武器も装備も、戦術、戦略も。何もかもが新しくなった。企業戦士として生まれ変わった私たちの戦場は世界。だから24時間365日、私たちはどこへでも行くしどこにでも居る。

 










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ある本の中の、



「60年代から70年代にかけて商社マンは世界至るところに散っていた。かつて石油をやっていたとき私は南米アンデスの山の中やアフリカのジャングルの中でも日本からのショウシャマンに会ったことがある」



という一段落に、辻倉のハートは火をつけられました。
クーデターが起きたりすると、外務省よりも商社のほうが先に情報を掴んでいたとか。
おそるべし企業戦士。



輸出入品目に関しては、最近のデータとごちゃまぜになっているのでご了承ください。
昔のデータが出てこなかったもので……。


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