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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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大英帝国の流儀 7




戦いの帰趨








 


夜陰に乗じ、イギリス軍はスペイン艦隊が停泊するカレーの港に接近していた。猫が獲物を狙うように、海賊たちはひたひたと敵に忍び寄り、急所に狙いを定めている。
気づかれないように極力気配を押し殺してはいるが、立ち上る闘志は痛いほどに感じられ、イギリスはぞくりと身を震わせた。



百トンから二百トンの船八隻に【積荷】を詰め込む作業は、極めて慎重に行われた。親愛なる義兄上様に贈るのだから丁寧にお願いね、とは我らが愛しき女王陛下のお言葉である。
風と潮の流れを慎重に見定めると、ドレイクはイギリスを振り返り、頷いた。



「坊ちゃん、準備整いました。やりますよ」



「ああ。うまく真ん中に突っ込ませろよ」



「この風と潮の具合ならばっちりです」



キャビンボーイが用意したブランデーのゴブレットを呷り、ドレイクは手旗を振った。開始の合図が星々の頼りない光の下に翻る。
【積荷】の載った八隻の船は、スペイン艦隊の停泊している港に向かって動き出した。その後ろから、すこし間を空けてイギリス船が追跡していく。
船が流れに乗ったと判断したところで、ドレイクはまた旗を振る。夜闇を赤い光が切り裂き、刹那、八隻の船団は紅蓮の炎に包まれた。追跡の船から放たれた八本の火矢が、船団に満載された可燃物に火を付けたのだ。
海面に水音と飛沫が上がり、火船から操舵手たちが次々と撤退してくる。さすがの泳ぎでなんなくドレイクの船まで泳ぎ着いた海賊たちに鎖梯子を投げながら、イギリスは五分後のスペインの末路を思い描いた。もうすぐ、あの太陽の国は海に沈むだろう。そして、混沌の夜を征して新しく昇る太陽は女王の冠をこそ照らす光となるのだ。

 





艦隊のように陣形を組んだ八隻の火船は風と潮の流れに乗り、極めて速い速度でアルマダに襲い掛かった。



「あかん、錨を捨てぇ! 逃げ遅れんで!」



夜襲を警戒して密集形態を取っていた無敵艦隊は、劫火を纏って襲い来る船団を避けてほうほうのていでカレー港を脱出した。フォーメーションも組まないままの出撃を余儀なくされ、さらに多くの船が予備の錨まで失った状態で北東方向へ海流に押し流された。



夜明け、陣形を完全に崩したスペイン艦隊をイギリス艦隊の追撃が襲った。機動力と長射程にものを言わせて、ドレイクはスペイン艦隊を北へ北へと押しやっていく。
無理な操船で舵を折る船、砲弾の直撃を受けてメインマストが折れる船。船腹に穴を開けられて沈んでいく船。次々と撃破されていく僚船と、船腹にせまる砲撃の水柱。その合間に見えた短い金髪の人影が片頬を歪めて笑うのを、メディナ・シドーニア公は確かに見た。



「おお、神よ……! 我らを悪しき運命から守りたまえ!」



「だまっとらんと揺れで舌噛むで、公爵! 邪魔やし船室に居てて!」



スペインは総大将を船長室に押し込めると、水夫達を叱咤して荷箱の積み方を変え、揺れる船体を多少安定させることに成功した。揺れが収まったおかげで砲撃の精度も上がる。
スペイン側から放たれた砲弾が、イギリス船の近くで派手な水柱を作る。飛沫を浴びた海賊船が慌てて舵を切った。



「船長、あきまへん! 他の船はまだ混乱状態で、よう連携が取れまへん!!」



水夫長が甲板に走り出て声を張り上げる。手に鏡を持って、反射による合図で僚船への連絡を試みていたらしい。
公爵のお守り役を任されていた海軍提督は、あご髭をひねってフンと頷いた。鋭い目がチラリとスペインを見やる。



「おおかた陸者が取り仕切ろうと吠えとるんやろ。そういう船は動けへん。船と馬は別モンや、『すぐ反転して反撃しろ!』なーんて何も知らん陸兵に怒鳴られても、無理なもんは無理。……よう覚えとき、我が国。何事も適材適所や。身分に関わりなく、な」



「ああ、ようわかったわ」



苦々しい思いで頷く。おそらく他の船の動きが悪いのは、船長の言うとおりそれぞれ乗り込んでいる陸将たちが足を引っ張っているのだろう。
船長はスペインの肩を叩くと、舵を指示しに舵輪のほうへ歩き去った。
ため息とともに頭を振ると、スペインは顔を上げた。と、その視界の端を見覚えのある金色がよぎる。振り返ったスペインの鼻先で水柱が上がった。船が大きく揺れ、身体が甲板に投げ出される。
打ち付けた痛みを堪えて飛び起きれば、敵船の甲板上に敵国の姿が見えた。砲身の傍らに立つ金髪の悪魔は、歯噛みするスペインに向かって優雅に手を振る。そして握り拳から突き出した親指が下を向くと同時に、二つ目の水柱が船を襲った。 

 




 * * * * * *
 




「まずは第一歩というところね」



自室に戻った女王は、ドレスの裾を翻して脚を組んだ。真珠を散らした胸元のレースを、午後の細い陽射しが弱く光らせる。
凱旋したドレイクたちイギリス海軍と海賊たちを迎えて、ロンドンは沸き返った。王宮でもささやかながら祝いの席が設けられ、今夜は勲功のあった船長たちに酒食がふるまわれる予定だ。準備に走り回る者たちの賑やかな声が、開け放たれた窓からも飛び込んでくる。
しばらくその喧騒に耳を傾けていたリーズだったが、ふと彼女は視線をあげた。



「アーサー、私はね」



言葉を切って、エリザベスはまっすぐにイギリスを見つめた。繊手が彼を差し招く。玉座の傍らに寄り添ったイギリスの手を、リーズの温かい掌が包んだ。



「アーサー。リトル・イングランド。私はあなたを世界一の強国にしてみせる。いつか七つの海を制覇して、グレート・ブリテンと呼ばれる国にあなたはなるわ。必ず」



握り返した手に力がこもる。イギリスは、彼の女王の青い瞳を見つめ返した。この輝きが、彼を高みへ押し上げる。



「必ず。我が君の仰せのままに」



細い肩に腕を回して、イギリスはリーズを抱きしめた。甘えんぼうね、と苦笑する吐息が右耳をくすぐる。いまだ硝煙のにおう髪を撫でる手。その指の示す先を目指してイギリスは歩いていく。幾万の敵を討つ戦場へ。輝く富を隠す未知の海路へ。そして、その果てに待つ栄光へと。






-------------------------------------



長かった……
終わりをどうするか、どう書けばいいかはずっと悩んでいてなかなか進められなかったんですが、なんとかここまで漕ぎつけられました。
連載を無事に終わらせることができたのも、読んでくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございました。






【参考】
『王女リーズ』(講談社ホワイトハート文庫)
『戦術の世界史』アルマダの海戦(ttp://www.k2.dion.ne.jp/~tactic/armada.html)



 

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