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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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類似と差異と


中国とドイツ






 









外交部の職員に案内されて部屋に入ると、テーブルの上に並んだ料理の湯気と茶の芳香がドイツを出迎えた。黒檀の円卓の向こう、束髪の小柄な影が「好」と声を上げる。

「時間通りあるな、徳国。遠路はるばるご苦労ある」


茶器を操る手を止めぬまま、中国はドイツに席を勧めた。背凭れの高い椅子に腰を下ろすと、目の前には白磁の茶杯が供される。清香がふうわりと鼻先をくすぐった。


「冷めないうちに食べてしまうよろし。上海自慢の小龍包に、北京随一の烤鴨も用意させたあるよ」

「ああ、すまない。ちょうど腹が減っていたんだ」


青茶で口を湿らすと、ドイツはまずレンゲを取り、卵入りの湯を掬った。とろみのついたスープに浮かぶ卵の口当たりが、食欲を優しく刺激する。碗の向こうには餡をきらめかせて横たわっている青菜、蒸籠に整然と並ぶ包子の数々が見える。ドイツは蒸籠に箸を伸ばし、小龍包を摘み上げた。頂点を一口齧り、中の肉汁を堪能する。
中国もまた、向かいの席について箸で鱶鰭の姿煮を崩し始めた。長い袖を器用に捌いて箸を操り、切り分けた鰭を口へ運ぶ。紅い舌が半透明の身を迎え入れ、唇の端に雫が散った。


「それで、上司や役人どもは昼に来たのに、お前はどうして遅れたあるか?」


大ぶりの油林鶏を齧りながら中国が問う。ドイツは二つ目の小龍包に生姜の千切りを載せて口へ運んだ。口腔いっぱいに広がる旨味を楽しむ。時間をかけて咀嚼し嚥下すると、ドイツは青菜の炒め物に箸を伸ばした。


「うむ。兄貴を日本の家に送り届けてきた」

「そういえば一緒じゃなかたあるな。連れてくる思てホテルの部屋ツインで用意したあるが」


黒酢のかかった海老焼売が次々と中国の口へ消えていく。


「わざわざすまなかった。ここのところ会議続きだったから、おそらく付いてくるのに飽きたのだと思うんだが」

「それで日本の家あるか。そういや、あいつはこのところずっと休暇だたはずね。いい守役ある」


炒飯の山を二つのレンゲが崩す。蟹のほぐし身がたっぷり入った餡を回しかけ、香ばしい胡麻油や、爽やかな葱の香を二人は存分に味わった。


「好、いい食べっぷりあるな。青島ビールも用意したあるよ、春巻と一緒にどうね?」

「ぜひ、いただこう」


中国が手を振ると、部屋の隅にいた青年がビール瓶とグラスを運んでくる。ドイツがグラスを受け取ると、青年は手際よくいい泡を立ててビールを注いだ。


「ありがとう、山東」

「とういたしまして。ご無沙汰いたしておりました、徳国殿」


すっきりとした眦が美しい彼は、山東省。かつてはドイツとも浅からぬ縁のあった地である。ドイツから技術移転されたビール醸造技術は今も、彼の地でしっかりと受け継がれている。
口に含むと、しっかりとした味わいと深いコクが舌を撫でる。ドイツはその懐かしい味わいに舌鼓を打ち、春巻をほおばった。
中国はと言えば手酌で白酒を呷りながら、餅にくるんだダックを平らげている。


「北京の烤鴨は格別あるな。あいつらはまだ厨房あるか」


山東が頷く。中国は「最好吃、と伝えとくよろし」と笑いかけた。


「俺からも、うまかったと伝えてくれ」


ドイツが言えば、山東は生真面目に頷いた。


「お伝えします」


 
 

三本のビール瓶が空き、追加を取りに山東が退室したところで、ドイツは今宵のシェフについて尋ねた。中国は白く細い指でテーブルの上を指す。


「その烤鴨や春巻に饅頭は北京、蒸籠の包子は上海。湯やらフカヒレ、炒飯は広東ある」


四川は地元が忙しいので来られずに残念がっていた、と付け加えられた。
(パンダの生態を見学した時に会ったことがあるが、彼の作る料理は大層辛口で、辛い物がそう得意ではないために辛かった思い出がある)
こうして各地の料理をずらりと並べられると、中国の広さを再認識させられた気がして、興味深かった。中国にはいくつの省があるのだったか、夕食の席の献立も随分な大所帯だ。


「中国の弟たちは料理上手だな。それぞれ趣が違うが、どれもおいしい」


それは何の気なしに発した言葉だったが、それに対する中国の返答は、ドイツを悩ませることになった。


「いや? あいつらは『省』や『都市』で、弟とは違うある」


「? どういうことだ。お前は兄で、あいつらは弟や妹じゃないのか」


不是、と首を振り、中国は言った。あいつらと我とでは、そもそもの成り立ちが違うあるよ、と。


「徳国と我は同じようなものに見えるかも知れねぇあるが、違うある。お前のところの諸邦はお前にとって『兄』と言うが、我は山東や北京たちにとってはあくまで『中華』あるよ」


きっと今の自分は不可解な顔をしているのだろう。中国は「めんどくせぇことは気にするないね」と話を切り上げ、新しく酒を注ぎ足した。

 




食事が済むと、ドイツは山東の運転する車でホテルまで送られた。勝手知ったる、という様子でキーを受け取り廊下を先導する山東を追いかける。エレベーターを待つ間、先ほどの中国との会話について話して聞かせると、山東はふむ、と頷いて口を開いた。


「老師にとって、私たちが弟妹という存在でないのはその通りです。天は彼を遣わされ、彼が認めた為政者が私たちを治めます。彼は天命そのものであり、『中華』の具体です」


エレベーターの到着を告げるベルが鳴る。足元にお気をつけて、と流暢なドイツ語で促すと、山東は階数ボタンを押した。


「徳国殿は御兄君たち諸邦の統合によりお生まれになったとお聞きしました。似ているようですが、実は真逆なのです。『中華』は初めから、私たちをしろしめすために在るのですから」


最上階にほど近い階に止まり、ドアが開く。抑えられた照明を白磁の壺が反射している。こぼれそうなほどに生けられた芍薬が異国情緒を沸き立たせていた。
山東は一番奥のドアの手前で立ち止まると、ドイツの掌に鍵を落とした。


「お荷物はすべて運ばせてございます。明日の朝はお迎えに上がりますので。どうぞごゆっくりおやすみなさいませ」


一礼して、山東はそのままエレベーターではなく階段のほうへと歩き去っていく。支那服の大きな袖を翻して遠ざかる背中を見送り、ドイツは部屋に入った。二つ並んだ寝台の向こうに、きらびやかな夜景が広がっている。ドイツは寝台にスーツのまま寝転がった。らしくねぇな、と揶揄する声も今はない。
弟妹ではない、と首を振る中国の顔が瞼の裏に甦る。彼は寂しくはないのだろうか。たった一人、上に立つために生まれて生きるということは。


夜景の向こう側に広がる暗い海の彼方へ、ドイツの心は飛ぶ。彼は今頃、ぽちくんと一緒に夢の中だろうか。騒いだり、わがままを言ったりして日本を困らせていなければいいけれど。






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前回の更新の裏コンビ的な。
中国さんと省たちの関係はいろいろと考えさせられる点です。
自分の勝手な考察で書いてみましたが、他の方のご意見もぜひ伺いたいですね。

 

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