銀星糖
こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。
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虫の羽音にも似た音を立てて明滅する電灯の光が、茶杯の中で静かに揺れた。
フランスはふと視線を上げて、向かいに座る男を見やる。常よりも機嫌が良さそうに見えるロシアの様子は、しかしこの薄暗い休憩室ではなんとも不気味に感じられた。
折から降りだした弱い雨は、ロンドンの雨模様とまではいかぬものの、辺りを陰鬱な冷気で蔽っている。窓の外の花壇では萎れた植物の蔓が竹の棒に弱々しく絡みついたまま濡れそぼっていた。
「さっきまで晴れてたのにねぇ」
イギリスが持参し、手ずから淹れた上等の紅茶だったが、ロシアはそれに茶の味がわからなくなりそうなほどたっぷりとジャムを入れ、匙でかき回している。
イギリスの眉間には案の定というべきか、皺が寄っていたが、それは紅茶のせいばかりではなかった。
「今日ね、日本くんのお見舞いに行ってきたよ」
匙を置いて一口飲むと、彼は灰紫の瞳をきゅっと細める。イギリスの表情が僅かに動くのを、その目は楽しんでいるようだった。
「どんな様子だった? 少しは回復してるのか?」
フランスが聞けば、ロシアは無邪気な笑みをこちらに向ける。
「元気そうだったよ。僕のせいでイライラするってさ」
嬉しそうに言うと、ねぇ、とロシアは皆を見回した。イギリスはその視線から目を逸らして二杯目の紅茶を注ぎ、中国はつまらなさそうに書類をめくっている。だからその瞳に滲んだ愉悦の色に気づいたのはフランスだけだった。
「アメリカくんはまだ来ないみたいだし、先にちょっと話をしてもいいかな?」
重苦しい沈黙が数秒続いた後、ロシアはその話を始めた。
類感呪術って聞いたことあるかな?
お互いに似たものを同一物だとして、一方に与えた力はもう一方にも及ぼされる、と信じて行う呪術のことだよ。見立て遊びの応用、って言えばわかりやすいかな。
たとえば、僕に見立てて作った人形を針でつついて、本物の僕にも怪我や病気をもたらそうとする、とかね。
日本くんのおうちにも、それと同じ術の伝統があるんだけど、知ってた?
そこまで話して、ロシアは紅茶を口に含み、三人を順番に見る。
「さて、ここに僕らの集合写真があるんだけどね。この写真、イギリスくんの分はたしか盗まれて、枢軸側に流出してたよね」
ソーサーにスプーンがぶつかる音が、フランスには緑と灰紫の視線がぶつかる音のようにも聞こえた。ロシアと向き合うイギリスの顔は、人形のように無表情で青白かった。内ポケットから取り出された一葉の写真は、随分前に撮影されたもので、フランスにも見覚えがあった。
「この写真には、僕たち五人が写ってる。日本くんはね、この写真から一人だけ切り取って、手帳に挟んでた。こんなふうに」
ロシアは机の上に用意された文具類から鋏を手に取ると、写真を裏返し、端の一人だけが収まるだろう幅で切ってしまった。しゃき、と音を立てて、切れ端が机に落ちる。
もう一度、内ポケットに手をやったロシアは、その切れ端とほぼ同じ幅の紙を取り出して二つを重ねた。ふちが擦り切れてくたびれたものと、今しがた切り取ったばかりのものと。表を見ないでも、それらは同じものなのだろうと容易に想像できた。
「この切れ端を見たときにね、おもしろいと思ったんだ。日本くんは写真を使って、おまじないをしたんじゃないかと思うんだよね」
「写真に写ってる姿を、現実の俺たちに見立てて?」
くすくす、笑って、ロシアは鋏で空中を切る仕草をした。
「写真は、連合というひとつの集団の見立てだよ。そこから一人だけを切り離すんだ。そうして、自分のほうに取り返そうとした。そう、君をね。中国くん」
ざぁ、と音を立てて書類が床に滑り落ちる。
俯いたままの彼に二枚の切れ端を差し出して、ロシアは楽しそうに喉を鳴らした。表に返されたそれらには、まったく同じ人物が仏頂面で写っている。黒い髪を一つに括った、細身の。
瞬間、差し出されたロシアの手から写真を奪い取り、中国は身を翻して部屋を走り出ていった。派手な音を立てて跳ね返った扉が、蝶番を軋ませて揺れる。
「ほんと、おもしろいよねぇ」
こんな話、信じちゃうなんてさ。
猫のように目を細めて、ロシアは残りの四人が写る写真をひらひらと遊ばせた。
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