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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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大英帝国の流儀 1

イギリスと戦争とは。


 

 










スペイン王フェリペ2世が、イギリス侵攻のために大艦隊の建造を進めている。






その報告を、彼女はまったく信じなかった。

 












「そんな噂、即位以来もう何度となく聞いてるわよ。暗殺されかかった回数の十倍くらいはね」



言葉とともに、上がってきたばかりの報告書が突き返される。
赤みがかった金髪をガウンの背に流して、女王は不機嫌な顔でソファから立ち上がった。



「リーズ! ちゃんと聞いてくれよ」



「お前がもっとまともな報告をしてくれるのならね。私、明日も早いのよ。お休み前のレディの部屋にやってきた理由が、らちもない噂話をするためだなんて」



そんなだからお前はへっぽこなのよ。
投げつけられた一言が、繊細な男心にグッサリと突き刺さった。胸を押さえ肩を震わせたイギリスを置いて、リーズは寝室への扉へ向かう。なびく髪から花の香りが漂った。侍女が用意した今夜の風呂は、薔薇の香り湯だったらしい。



「そのラム酒を飲み終わったら、もう下がりなさい。……ああそうだ、ハンフリーがまた帰ってこないのよ。探しておいて頂戴」



バタン、と閉められた扉を見つめて、イギリスは肩を落とす。
王室御用達のラム酒の芳醇な味わいも、今だけは彼を慰めてはくれなかった。

 

 




 

「まったく、リーズのやつ……」



わざわざ女官にカンテラを調達してきてもらい、イギリスは夜の庭に下りた。
ぶつぶつとぼやきながら、こでまりの茂みの向こうを覗きこみ、薔薇の垣根の下まで目を走らせる。しかし、ハンフリーはどこにも見当たらない。
日の光の下では目立つ見事な漆黒の毛も、この闇の中ではなんと探しにくいことか。
女王陛下のきまぐれな愛猫を探して、イギリスは夜の庭を徘徊する。



「毎度のことながら、あのいけ好かない猫め、散歩するにしても建物の中だけにしておけよな……」



ヤツが侍女の目を盗んで外に出るせいで、こうして自分が夜露で服を濡らしながら庭の植え込みをかき分ける羽目になるのだ。



ハーブの植木鉢の陰まで照らしても、ハンフリーの足跡すら見つからない。今日はもっと奥の区画に行ってしまったのだろうか。考えるだけでゲンナリしてくる。
イギリスは盛大なため息をついて、庭にしゃがみこんだ。リーズの居室のある建物まわりを一周するだけでもかなりの手間なのに、これからさらに捜索範囲を広げなければならないとは……。



胸に去来するなんだかしょっぱい思いのままに、芝生を掴んで毟る。あとで庭に住む妖精に文句を付けられるかもしれないなどという考えは、この時は思い浮かびもしなかった。ただ、自分を中心とした半円状に、無惨にちぎれた芝生のあとが残っていく。
やがて毟られた緑色がこんもりと小さな山を作ったころ、唐突に、イギリスの耳朶を熱の少ない穏やかな声が打った。



「こんばんは、カークランド卿。失礼ですが、このような時間にいったい何をなさっておいでなのですか?」



立ち上がって振り返ると、庭を横切る渡り廊下に【実直が人の姿をとったような】と表現するに相応しい、細身の紳士が立っている。女王陛下の顧問官ウォルシンガム卿は、行儀作法の教則本そのままの動作で祖国に一礼した。
彼の腕の中で、黒い毛皮に白い口髭模様の紳士もニァア、と気取った挨拶をする。ハンフリーは卿の服地に顔を擦り付けると、甘えた仕草で喉を鳴らした。



「こんばんは、ウォルシンガム卿。今日はずいぶん遅くまでおいでだが、仕事の進み具合はどうなんだ?」



「そのことにつきましては、二、三ご報告いたしたいことがございます。それであなたのお部屋にうかがったら、こちらだと……。ちょうど良いかと思って私も参上した次第です」



「さっき追い出されたところだよ……猫探して来いって」



恨めしげににらみ付けるイギリスを小馬鹿にするように、ハンフリーは尻尾を振ってみせた。ウォルシンガムの腕から飛び降りると、そのまま我が家へと歩き去っていく。まったく、あんな尊大な歩き方はローマ皇帝でもしないだろう。どんどん飼い主に似てきやがって、とイギリスは舌打ちをした。



「ハンフリー殿はお帰りになられましたし、これであなたの特別任務は終わりでしょう。よろしければお帰りになる前に、私の執務室に寄っていただけませんか? 報告を済ませてしまいたいので」



「わかった」



イギリスは服に付いた芝生の切れっ端や木の葉を払い、首をぐるりと回した。パキ、と鳴った骨に自身の疲労をつくづく思い知る。もう少し国力を増やせば体力も増えるだろうか。しかしそのためには、まず周辺国の脅威から身を守る必要があるのだ。多少の無理をしてでも、今は働いておかなければ。



「ハードだな、まったく」



ウォルシンガム卿に聞こえぬよう、ひとりごちる。大理石の渡り廊下に足を乗せると、靴裏に潜んでいたらしい小石がギィと声を漏らした。

 

 









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長くなりそうので、潔くいくつかに分けることにします。




女王様の猫は、イギリス首相官邸に住み着いた猫をモデルにしました。
名前は、初代ネズミ捕り主任のハンフリーから。
外見は、二代目のシビルから。


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