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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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トリカゴ

久々に中国さん。日本は出てきませんが中日です。






















中国の家の庭は、大層広い。整然と整えられた庭木に清雅な竹林、絢爛な花園。陶の椅子やテーブルを並べた四阿、大小さまざまの池や川、堀の側にそよぐ柳。奇岩を配して松を植え、仙境の風情を象った場所もある。めぐっているうちに道を失い境を越えて、本当の深山幽谷に迷い込む者も時折出る。ちょうど今のイギリスのように。



「おいおい、またかよ……」



肩にとまった柳のわたを払って、イギリスはため息をついた。
中国の庭からどこかへワープしてしまうのは、これが初めてではない。いままでも、アムール虎の縄張りに飛ばされて酷い目にあったり、雲海を見はるかせる神山の天辺に出てしまって遭難しかけたりしている。それらに比べれば、今回は少しはマシな場所に出たようだ。
雲の高さや気温からすると、標高は低いほうなのだろう。空気に湿り気があるから、南の地方なのか。周りの山のあちこちに霧がかかっている。どこかで小鳥の鳴く声も聞こえる。今は春で、景色を眺めるにはもってこいの時節だ。だが。



(ど、どうやって帰ろう……?)



断崖絶壁と表現するしかない、切り立った岩肌の上にイギリスはいた。崖下には川。細い分、流れが速そうだった。崖の上はバスケットボールのコート一面分くらいの広さで、細い松の木が枝を風にそよがせている。
そして、そこには家が建っていた。一間と半分ほどしか取れないであろう、それはイギリスの感覚からすれば小屋と呼ぶべき大きさだ。しかし、小屋というには瀟洒なつくりで、手入れもよく行き届いているように見えた。



誰か住んでいるのだろうか。こんな絶壁の上に?
イギリスの感覚では想像もつかないが、四千年の歴史を誇り、今しも十二億を超えようかという過剰な人口を抱えるこの国のことだ。そういう酔狂な人物が少しばかりいても不思議ではない。



(そうだ、ここで生活してるんだったら、生活物資の調達なんかで下に降りてく方法があるに違いない)



イギリスは崖の縁から家のほうに歩を進めた。窓には紗幕がかかっていて、中の様子をうかがうことはできない。家の周りをぐるりと回ってみたが、期待していたような下へのルートもなかった。



「家の裏とかに、絶対あると思ったのに……。どこから降りてやがるんだ?」



まさか、黄色の雲を交通手段にしているわけでもあるまい。もしや、家の中にルートがあるのだろうか。岩を掘り抜いて作った階段とか……。



「ありえる、かもしれねーな」



英語が通じない可能性は大だが、挑戦するしかないだろう。身振り手振りでも“下に降りたい”という意志さえ伝わればそれでいい。
意を決して、イギリスは東洋風の装飾を施された扉の前に立つ。ひとつ深呼吸をして、ノックを三回。



「Excuse me!」












 

キィ、とかすかな音を立てて、観音開きの扉が開いた。隙間から部屋を覗いてみるが、人の気配はない。



「………………?」



用心を解かず、イギリスはジャケットの内側に手を入れた。銃は持っていないが護身用のナイフがある。中指ほどの刃渡りの細いものだが、ないよりはましだ。



部屋の窓には薄い絹のカーテンがかかり、洒落たデザインの花台には生花が活けられていた。
どうやら女性の住む部屋のようである。が、すみずみまで掃除の行き届いた部屋は生活の匂いがまるでない。モデルルームのように、綺麗な調度品が配置されているだけの空虚な部屋だ。いったいどうしてこんな場所にこんな部屋が作られているのか。



天鵞絨を張ったソファセットには東洋風の装飾が施され、神獣や草花の刺繍のクッションが置かれている。テーブルの天板には螺鈿の細工が光っていた。
壁の一面を埋める大きな本棚には、太い糸で綴じた古書が収納され、墨の香りを漂わせている。その横には黒檀の書き物机と、背の高い燭台。据えられた蝋燭は繊細な絵画が描かれたものだ。



そして、机と揃いの黒い椅子には、カラフルな刺繍入りの小さな小さな靴が一足載せられていた。特殊な形をしたその靴は、少し昔までは中国の女性がみんな行っていた奇妙な風習にまつわるものだった。



吸い寄せられるように、イギリスは靴に近づいた。手に乗せると、その小ささがいっそうよくわかる。六インチあるかないか、というサイズだ。艶のある絹糸で描かれているのは、美しい小鳥と、菊と桜の花。



桜は春、菊は秋に咲くもの。異なる季節の花を取り合わせたその刺繍に、僅かに違和感を覚えて、イギリスは首を傾げた。そのとき。






ギィ……、ばたん。



扉が閉まる音に、イギリスはぎょっとして振り向いた。が、鼻をかすめた沈香に、肩の力が抜ける。



「まったく、またお前は庭から“飛んで”たあるね。その特殊体質、どうにかするよろし」



「ちゅ、中国……。驚かすなよ! てっきりここの住人が帰ってきたのかと……」



「住人? そんなの居るないね。此処は我の作った鳥籠あへん。今は空あるが」



まったく、こんなところにまで入り込まれるとは想定外だったある。
とため息をついて、中国は長椅子にどっかりと腰をおろした。袖をひらめかせ、イギリスにも向かいの椅子を勧める。腰掛けると、ほどよい弾力の座面がイギリスの体重を受け止めた。



「鳥籠って…… 別荘じゃなく?」



「鳥を飼っておくための部屋ある」



首肯した中国の手元には、どこから出したのか、点心の蒸籠があった。蓋を開けると桃を象った菓子が三つ。イギリスを探しているうちに冷めてしまったと文句を言いながら、中国はその菓子を一つ取り上げ、薄紅の皮に歯を立てた。



「少し前、我の手をすり抜けて逃げ出した鳥がいてな。雛のころから育てていたのに、薄情にも我を捨てて飛び去ってしまったある」



「ふぅん。捕まえられなかったのか?」



点心を摘みながらそう聞くと、中国はその黒い目を伏せて、うっすらと笑んだ。



「……残念ながら、な。いったい、誰があの子に別の空を見せてしまったのやら」



風切り羽根を切っておかなかったのは失敗だった、と口の端を僅かに吊り上げて、背凭れに体重を預ける。天井に投げられた視線はひどく遠く、失った鳥の飛翔した先を探しているようにも見えた。



彼が命あるものに執着を示すことは珍しいような気がする。イギリスは妙な感慨を覚えて、細く息を吐いた。長く生きて、誰よりも喪失に慣れきったはずの彼さえ、やはり他者を想い求める感情を失くすことはできないものらしかった。
いったいどんな……と考えたところで、イギリスは嫌な予感に胸が締め付けられるのを感じた。しかし、部屋に漂う香気が頭を重くさせる。鼠色の薄絹がかかったように光度を失った視界が、だんだんと狭くなっていく。



「気候のいい場所を選んで、この庵を作ったあるよ。慰みにあの子の好きだった書物やら、絵画、焼き物も揃えて」



ああ、鉢植えの植物もたくさん揃えたほうが喜ぶあるかな。中国が笑う。東向きの窓に濃緑の松が影を落としている。枝の向こうには、薄紫の霞がたなびいていた。



「今はよその庭で羽根を休めているようあるが、必ず取り戻す。あれは我のものあるからな」



そうしたら、誰も探せないこの場所に住まわせて、二度と外に出さないね。
我のためだけに在るように、もう一度最初から刷り込むある。
この高い岩山を身軽なあの子が下りて行ってしまわないように、風切り羽根を切って。



夢見るようにゆったりと紡がれる言葉が、だんだん遠くなっていく。目の前が古い映画のように擦り切れて見える。必死に目をこじ開け、イギリスは中国を見た。
中国が、卓に置かれた小さな靴を愛しげに撫でる。菊と桜の刺繍に白い指先が這うさまに、イギリスは背筋が泡立つのを感じた。



わかりきっていたことではないか。彼が執着する相手など、一人しかいない。



「お、まぇ……」



自分の声さえもどこか遠くに消えていく。



「お休みある、英國」



弦月を象った紅い唇が囁いたと同時に、世界が暗転した。

 









 

  * * * * *

 







 

「…………國、英國、起きるあへんこの味オンチ海賊~」



べちべちと額を叩かれて、イギリスは眉をしかめて寝返りをうった。うるさいなもう10分寝かせてくれよ馬鹿……



「だ~れが馬鹿あるか不憫!寂しんぼ!! 風邪ひいても知らんあるよ!!」



「ん、んん~……ふぁっ」



瞼を擦り擦り、固いベンチの座面から身を起こす。水紅色のひつじ雲が漂う空は、西から夕日色のグラデーションがかかっていた。どうやら、庭ですっかり寝入ってしまっていたようだ。



「まったくお前は……昼から姿が見えないと思ったら! 池も近いのに、こんなところで寝ると蚊に刺されるあるよ」



見回しても、そこは花の咲き乱れる美しい四阿だった。甘い花の香りが、風に乗って流れてくる。
一瞬前まで見ていたはずの夢は、水に浸った水彩画のようにぼやけ、たちまち溶けていってしまった。もう、ぼんやりとしたイメージすらも思い浮かばないほどに。



「あ、あれ? 夢、か……?」



「寝ぼけてるあるか、英國。気付け薬でも嗅ぐといいね」



「い、いい! 要らん!」



袖から怪しげな紙包みを取り出す中国を手で制して、イギリスはあとずさった。漢方のにおいはどうも苦手なのだ。アフタヌーンティーを抜いてしまったおかげで空腹なのに、そこへあのにおいを嗅がされたら酔ってしまうかもしれない。



「目は覚めたみたいあるな。寒くなってきたから、早く家に戻るね。もうすぐ夕食ある」



どうせ食べていくんだろう、とわざとらしいため息をついてみせ、中国はすたすたと歩き出す。
その後ろ姿を追いかけて、イギリスも四阿をあとにした。



ぐっ、と伸びをすると、身体に残っていた睡眠の残滓がすうっと抜けていく。すっかり冷たくなった風が首筋をくすぐり、イギリスは身体を震わせた。



「寒いな……何かあったかいモンが飲みたい。ジンジャーティーとか」



「自分で淹れるよろし」



呆れ声を聞き流しながら、空を仰ぐ。宵闇がせまりつつある東の空を、大きな鳥影が横切っていく。その黒い影は地上の二人を見下ろして、ギャア、と枯れ錆びた声を上げた。







 

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放っておきすぎて、自分でもよくわからなくなってしまった作です。
オチてない気がしてアレですけど、もったいないので置いときます。
ただ纏足靴を出したかっただけのような気も……


中国さんの人口が十二億になってるのは、わざとです。それくらいの時代だと思っていただければ。



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