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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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旅の計画は内密に

記念すべき二作目のオーストリアさんです。














開始一時間前。夕食会の会場に着いたドイツは、また早く来すぎたかと息を吐いた。
時間が決められているとどうしても早く着きすぎてしまうのはもはや癖だ。別室で本でも読んでいようとホールから右の廊下へ足を向けたところで、別の足音が階段を打った。



「Guter Abend, ドイツ。相変わらず早いですね」



磨き上げられた飴色の手摺に美しい手を載せて、オーストリアがホールへ降りてくる。主催国とはいえ、彼自身がこんなにも早く着いているのは珍しい。嫌な予感が、と思ってしまうのは自分が心配性だからだろうか。



「何かあったのか? オーストリア」



「明日、あるのですよ。それで、あなたにぜひとも協力してほしいことがありましてね」



藍色の瞳がいつになく光を強めている。こんなときのオーストリアには否と言っても無駄だということは、いままでの付き合いで十分すぎるほど知っていた。



「俺に可能な範囲内でならば協力しよう」



「では、上の階へ参りましょう。後から来る客人方に聞かれては困るので」



思いもかけぬ密談の誘いだ。自分とコイツがこそこそ何かをすれば、また他のやつらが騒ぎ出す可能性もあるのに大丈夫だろうか。個人的に嫌っているらしいフランスに一泡ふかせる算段にでも巻き込まれたらどうすれば…。そういえば、フランスとプロイセンに何やらけしからぬ嫌がらせをされたのだとか、ハンガリーから聞いた覚えが……。こいつは本気で怒ると何を始めるかわからないし……。
踵を返して先を歩くオーストリアについて、ドイツも階段に足をかける。五段昇ったところで、オーストリアがくるりと振り向いた。シャンデリアの光を反射して、眼鏡がギラリと光る。



「心配しなくとも、物騒な話ではありませんよ。安心してついておいでなさい」



「な、」



「あなたの足音でわかるんですよ。また悲観的に考えているでしょう」



……相変わらず恐ろしい耳をしているものだ。
今度、足音を消すニンジュツでも習ったほうがいいかもしれない。

 

 











美しく磨かれたワイングラスを前に、オーストリアはどこか上機嫌に見えた。表面上はいつもの無表情なのに、うきうきした気配が漂っている。テーブルに置かれたワインは、少し珍しい赤のスパークリングワインだ。
オープナーを押し付けられて、いつものようにドイツが栓を抜く。グラスに注ぐと、薄くカシスの香りが漂った。




「で、話とは」



「ええ。あなたにしか聞けないことなのですよ」



タクトを振るときと変わらない優美な手つきでクラッカーにフルーツチーズを塗りながら、オーストリアはドイツに言った。



「日本の好みについて、なるべく詳細に教えてほしいのです」



「日本の好み? いったい、何のために」



「明日、ウィーンの案内をして差し上げるのですよ。見るべきところはたくさんありますが、駆け足で数だけ回るのは野暮でしょう? 魅力的なコース設計でいきたいのです」



そう言って、クラッカーを一口食し、ワインに口をつける。普段はあまりアペリティフで軽食を摂らないのに。夕食が入らなくなるぞ、と言えば、今夜は立食形式にしましたからご心配なく、と返ってきた。



「めずらしいことばかりだな、今夜は。お前の家で立食など」



「たまにはいいでしょう。それよりもほら、彼の好みを早くお言いなさい」



ウィーンの観光名所といえば何があったか、とドイツは市街地図のデータを記憶から引っ張り出した。いくつもの宮殿、美術館、博物館、植物園、公園、歌劇場、寺院、大学。ワイナリーや市場なども観光するのにはいいだろう。以前、日本にドイツ国内を案内したときには、ビールの醸造過程を興味深そうに見ていた覚えがある。
観光好きだから、どこに連れて行っても喜ぶとは思うが、さてウィーンを案内するとすれば、自分ならどこを選ぶだろうか。
そうだ、たしか日本には……



「……クリムトの絵があるのは、どの宮殿だった?」



二枚目のクラッカーに伸ばした指先を止めて、オーストリアは視線を上げた。



「ベルヴェデーレ宮殿です。日本はクリムトがお好きなのですか?」



「格別どの画家が好きと聞いたことはないが、たしか日本の美術館にクリムトの作品が展示されていたからな。これもある種の縁ということで、案内してみるのはどうだ?」



そうですね、とオーストリアは頷いた。ワイングラスを揺らすと、紅玉色の美酒の中で細かな気泡が踊った。宵闇の瞳でそのさまを見つめて、ふっ、と口元を緩める。



「移動は、フィアカーがいいでしょうか。一台借り切って」



「そうだな、晴れていれば」



「いざとなれば人をやって、屋根のあるタイプの馬車を調達します」



あまりよその国に関心を持たないタイプだと思っていたが、今回は何か異様なまでの張り切りぶりだ。やはり嫌な予感が拭い去れない。



「言っておくが、あまり日本を振り回すなよ」



長い付き合いの自分でさえ、オーストリアのペースにつき合わされるのに疲れることはままあるのだ。ノーとは言わない日本ならば尚更だろう。そう言うと、眼鏡の奥の瞳がさも心外そうに細められた。



「失礼な人ですね、まったく。私とて、ホストとして客人に気を遣うことくらいできます。貴族の嗜みですから」



「どうもそれだけではないような気がして仕方ないんだが」



ワインを口に含む。コクがあり穏やかな味だ。だがこの美味も、ドイツの不安を払う甘露にはなりそうもない。
ドイツと同じようにワインを一口嚥下して、オーストリアは微笑した。



「その眉間の皺を少しは緩めなさい。あなたが威圧感を出していると、パーティーの空気も堅苦しくなってしまいますよ」



「頼むから話をそらすな。いったいどうして急に観光案内を買って出たりしたんだ」



そうですね、とオーストリアは天井へと視線を投げた。白く美しい漆喰に藍色の視線がカーブを描く。



「日本と話していて、興味が湧いたんです。いままで遠くの国だと感じていて、あまり積極的に関わろうとしたこともありませんでしたが、せっかく交流の機会を見つけたわけですし、これは楽しまねば、と」



トルテに目を輝かせていたのも可愛らしかったですし。



呟きを拾い上げて、ドイツの頭はまたズキリと痛んだ。ああ、不安がまた重量を増していく。
口を噤んだまま眉間を揉み解していると、前庭のほうから急に騒がしい声が聞こえてきた。どうやら、米英兄弟が到着したらしい。スペインとフランスの声も聞こえる。何もそんな騒がしいメンツで揃って来なくても良いものを。



「ではドイツ、そろそろ階下に戻りましょうか。ああそれと」



長く優美な指をひとつ立てて、オーストリアは念を押した。



「この計画については、誰にも口外しないように。我が都をめぐる旅に、余計な邪魔など入れたくありませんので」



もしここで素直に頷かなければ、「ではイタリアの南チロルでもつついてストレス発散を」などと言いかねないような眼光だった。



(日本……君はいったいこいつの前で何をして、どんなことを話したんだ…………?)



もうすぐこの館にやってくるだろう小柄な友人の顔を思い浮かべて、ドイツはそのたくましい肩をがっくりと落とした。

 





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久々の更新です。遅くなって申し訳ありません。
オーストリアさんを一生懸命説得して、舞台に上がっていただきました。
性格が掴みづらいので苦戦しましたが、ほかの素晴らしいサイトさまを廻りつつ、「こんな性格だったらどうだろう」とか、いろいろ試行錯誤してみました。
みなさんの中のオーストリアさん像に近づけてはいるでしょうか? ぜひご感想をお聞かせください。

 

【語句】
・クリムト……オーストリア出身の画家。日本では愛/知/県美術館が彼の作品を所蔵しています。金箔を使った『接吻』などが有名です。
・ベルヴェデーレ宮殿……オーストリア・バロック建築の巨匠ヒルデブラントが建てた美しい宮殿。クリムトのほか、シーレなども展示されています。庭園も見ごたえがあります。
・フィアカー……ウィーンの観光馬車。



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