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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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とらわれるもの(中←日←独)




ホラーちっくなものを目指したはずが、いつのまにかタダの病んでいる話になりました。
気持ち悪い各国を見ても大丈夫だという方のみご覧ください。
苦情は受け付けられません。

























 


このところ、中国が家に帰っていないという。









最後に目撃された場所は、小さな小さな島国だという。中国政府からの開発援助の件で話をした後、会議場から忽然とその姿が消えた。
ベルリンにある大使館は不気味な沈黙を保っていて、ドイツにはまったく事情がわからない。しかし東洋の国々や、そこに利権を持つ者たちにとっては大問題らしい。株は今のところ暴落を起こしたりはしていないものの、全体的に買い控え傾向が続いており、為替市場も不穏な空気が漂っているそうだ。
ロシアが珍しく焦っている様子で、情報提供を求めてきていたが、ドイツは首を振ることしかできなかった。実際、こちらでは何も掴めていないのだ。
対立している台湾が攫ったのではないかとの噂が流れたほか、辺境の自治区で住民に襲われた、中国との国境・領土問題を抱えている国や地域に秘密裏に殺された、など、物騒な話までささやかれはじめている。
台湾やほかの国々は心底迷惑そうな口ぶりで、中国の行方についてたいそう心配していた。何か起こる前に早く出てきてほしい、と。
中国の隣に住んでいる、彼の騒がしい弟分は日本を疑っているようだ。日本には中国を攫ったり殺害したりするメリットはないと再三説明されても、まだわからないらしく、「日本のせいに決まってるんだぜ」を繰り返していた。何がどういうわけで決まっているのか、わかりやすく言ってほしいものだと思う。



中国がふらっといなくなることは、長い歴史の中で度々あったことだと聞く。相当の疲れを溜めたときには、心身から澱を除くため、深山幽谷をめぐったり、仙界へ旅をしたりしているのだ。
そんなことを聞かされたときには、中国流のファンタジーの話だとばかり思っていたが、イギリスは実際、中国の家の庭から仙境にワープしてしまったこともあるらしい。



そして、もう一つはもっと不可思議な話として記憶に残っている。
『天命が革まる』とき、彼は為政者のもとから姿を消し、天命の具体として新たな中華皇帝のもとに現れるのだと。
日本の大学で東洋史の講義を聴講した日、帰りの車で日本が教えてくれた話だ。東洋の【国の化身】は、西洋のそれとは在り方が違うのかと、その時はそう思っただけだった。



もしこれが本当の話で、そして今そのために中国が姿を消したのだとしたら。



ドイツは書類の束を取り落とした。

 





 

 

 

「オレはとりあえず様子見だよ、今のとこはね」



三回目のコールで電話に出たアメリカは、ドイツが質問を言い終わらないうちに、早口でまくしたてた。



「衛星にも不審な動きは映ってこないし、君の言う、レボリューション? なんか起こる気配はないよ。潜り込ませてる情報提供者は優秀だからね、そんな動きがあるなら報告してくるさ。政府転覆なんて一朝一夕ではできないよ、そうだろ?」



「ああ……しかし………」



もしあの大国がどうにかなってしまうのだとしたら、今の世界がどうなるか予測もつかない。
ただでさえ不安定なところに、国の具体が行方不明なのだ。もしものことが起これば、最悪の場合、大規模な戦争に発展する事態もありえる。中国の混乱に乗じて周辺国がどういう動きに出るかも予測がつかない。
アジアから発生する波が世界恐慌という嵐になって襲い掛かってくるとしたら。



「楽観的に構えたいところなんだけどなぁ……。気をつけてみるよ。何か情報が入ったらお互い連絡しあうってことで」



この後すぐに議会だというアメリカは、それだけ言って受話器を置いた。ドイツはため息をついて寝椅子に凭れかかった。肩が重い。首を回してみると、グキリと骨が鳴った。



壁の世界地図には、三つの赤いハートのピンが刺さっている。イタリアが先月やらかしたのだ。ベルリンとローマ、そして東京にひとつずつ。優しい笑みでその様子を見守っていた日本は、少し疲れた様子だった。無理はしないほうがいいと、そうドイツは注意して、気をつけますと日本は答えた。しばらく国際会議などは部下に任せて、自分は家で仕事をします、と。その週末から、日本は国外に出てきていない。



隣国が動乱に陥ったとき、その震動は友人をも脅かすだろう。遠く隔たっている自分でさえ、影響が波及することを懸念しているのだ。日本はもっと不安でいるはずだ。改めて地図を見ると、怖くてたまらなくなった。日中両国の間にある海を表す水色のスペースも、今は水たまり程度にしか思えない。こんなに近いところにいて、日本は大丈夫だろうか。もしダメージを受けて、そんなところをあくどい外国資本に狙い撃ちにされたりしないだろうか。テロが起こったり、外国にミサイルで撃たれたりしないだろうか。



ドイツは私用回線のほうの携帯電話を取り上げると、短縮の三番を押した。
早く出てくれという祈りは届かず、ただ呼び出し音だけがいつまでも続いた。

 







 

 

 

三週間が過ぎたが、事態は動かなかった。中国が行方不明のままでも世界経済が変調をきたすことはなく、また革命や暴動の兆しもなかった。
そしてその間日本もまた、家から出てくることはなかった。アメリカやギリシャ、イタリアが電話をかけたようだが、格別変わりはないようだ。来週からは、徐々に国際的な場にも自身で出向く予定でいると聞いた。
中国が姿を消した南の島国に対する開発援助は、日本が肩代わりすることになったようだ。それも、中国が提示した計画よりもさらに気前よく。技術供与や人材育成までも惜しみなく行うようで、その国の化身である少年はとても喜んでいた。



ブリュッセルでの会議を終えて、ドイツは空港に到着した。これから飛行機に乗ってベルリンの我が家に帰れば久々の休暇だ。少なくとも三日の間はゆっくりできることになっているので、家の手入れや読書などをしようと、先日から楽しみにしていた。
ロビーに入ると、同じくこれから自国へ帰っていく様子の国々も何人かいる。



「あ、ドイツさん。お久しぶりです」



チャコールのスーツを着込んだ背の高い青年が、こちらに手を振った。リトアニアだ。スーツケースを引いて近寄ってくる。会議では見かけなかったが、どうしていたのだろうか。
優しげな風貌と如才のない笑みは、どこか日本を思い出させる。最近の目覚しい経済成長もあるのだろう、背筋がピシリと伸びた彼は、ロシアの後ろにつき従っていたころよりも一回りも大きく見えた。



「EUのほうはどうでしたか? 何か新しい議題が出たりしました?」



「いや、特に変わったことはなかったな。お前のほうは……?」



「ああ、僕は乗り継ぎで。これから家に帰るところです。東京からヨーロッパって遠いですよねぇ」



肩が凝っちゃって、と指先で首から肩のラインを圧しながらリトアニアは苦笑した。



「日本に行っていたのか? 何の用事で?」



「貿易とか、留学生の交換の話があったんです。それでご挨拶に」



ポケットから黒い包みの飴玉がふたつ出てくる。ひとつ包み紙を剥ぎ取って口に放り込むと、リトアニアはもう一つの飴をドイツに差し出した。



「日本さんにいただいたんです。ドイツさんもおひとつ」



「ああ、ありがとう。で、日本はどんな様子だった? 来週あたりからまた出てくるようだが」



「お元気そうでしたよ。長い休みの間にリラックスできたっておっしゃってましたし。アロマテラピーの効果かな」



日本がそんなものに凝っていたとは初耳だ。そう言うと、リトアニアは右下に視線を動かし、匂いを思い出すようにゆっくりと息をした。さら、と長めの髪が肩を滑る。



「おうちにいい匂いがしていて、尋ねたら東洋のアロマテラピーのようなものです、っておっしゃってましたよ。それに、花の香りのするお茶とか…………ドイツさん?」



彼の髪から漂った微かな匂い。苦味のある中に、わずかに甘味を持った、東洋を思わせる香り。
ドイツは駆け出した。休暇のことも頭から消えていた。ただ一刻も早く日本に会わなければと、それだけを考えていた。会ってどうするかも、どうなるかもわかっていなかったのに。

 

 

 






 

冬の太陽が今しも山の端に隠れようとしていた。紅を含んだ灰紫の霞が、夜の成分を増しつつある空にたなびいている。
正門は固く閉ざされたままで、ドイツは焦る気持ちを抑えきれずに裏口へ回った。薄い板戸を敲くと蝶番が小さな軋みを上げて、扉が僅かに開く。



「日本……? 入るぞ?」



おそらく家の中にいるのだろうけれど、小さな声で一言断ってから、ドイツは素早く木戸を潜り抜けた。
建物の内部まで無許可で入るのは躊躇われて、ドイツは勝手口を開けて頭だけを差し入れ、日本の気配を確かめた。居間やその周辺にいるのなら、このドアが開いたと同時に気づくはずだった。しかし、日本の声もなく、足音も衣擦れの音すらしない。漂う空気はしんと冷たく、火の気がどこにもない。折り畳み式の携帯電話が食卓の上に置かれて、青いランプを点滅させていた。



扉を閉め、庭のほうへと回る。冬の乾いた風に混じるのは、竹林や苔、土の匂いだ。だがそれらは未だ記憶に残るあの香を、この胸騒ぎを、打ち消してはくれなかった。
夕闇に、鹿威しの音が響く。背の高い糸杉が、ザァ、と枝を撓めた。玉砂利を踏んで、木製のサッシが嵌められた長い廊下に沿って歩いた。カーテンはすべて開け放たれており、硝子の向こうの障子は黄昏の色が滲んでいた。日本の影はどこにも見えない。縁側の沓脱ぎ石に、小さな草履だけが置かれている。



玄関には鍵が掛かっていなかった。一応インターホンを押したが、五分待っても誰も出てこない。ドイツは日本に悪いとは思いながらも、土間に足を踏み入れた。



「日本、いないのか?」



呼んでも、その声は砂壁にぶつかって散じただけだった。後ろ手に閉めた引き戸が、風に揺れてカタカタと鳴いた。



いっそ靴を脱いで上がってしまおうかと悩んでいたドイツだったが、そのとき、外側から引き戸に爪を立てる音がした。ニァ、ニゥ、と小さな声。戸を引いて隙間を開けると、銀色の生き物が飛び込んできた。ドイツの靴ほどの大きさもない、子猫だ。しゃがみ込んで手を伸ばしてみると、随分人馴れしているのか、手のひらに擦り寄ってくる。



「日本の家の猫か? 動物を飼っているとは知らなかったな」



ニゥ、とないて、子猫は碧色の瞳をドイツに向けた。両手でその小さな熱の塊を掬い、上がりかまちに腰掛ける。膝の上で丸くなる子猫の背中を指先で撫でながら、ドイツはこれからどうするのか、考えをめぐらせた。



日本が中国に対してのみ持つ心の中の【何か】、その存在をドイツは知っていた。ほかの国々もそれは承知だろう。中国も日本に対してはある種特別な視線を向けていた。両国の関係がどんなに拗れていても、それがあるためにあの二国は彼らだけの特別な、奇妙な結びつきを維持していた。嫉妬しなかったといえば嘘になる。だが自分は想いを口に出さないまま、いままでただ見ているしかできなかった。二人の間にあるものは、容易に他者を寄せ付けなかった。日本の同盟国たるアメリカにも、中国の弟である韓国にも踏み込ませぬ領域だった。



しかし片方が消えてしまった今、残された日本がどんな状態になっているか。表面上は何事もないようにしていても、裏側がどうかなどは誰にもわからない。ましてや本心を隠すことにおいては、日本は一家言ある国だ。たとえ罅割れて崩れ落ちる寸前であったとしても、その穏やかな微笑ですべて蔽ってしまうはずだ。
中国が愛用していた香を焚いて、中国が好んでいた茶を客に出して、日本は何がしたいのだろう。そんなことで中国が彼のもとに帰ってくるわけではないのに。
胸騒ぎがいっそう激しくなる。耐え切れずに、ドイツは靴を脱いだ。早く日本に会わなければ、手遅れになってしまう。強くそう思った。



ニァ、と銀色の子猫がなく。



「悪いが勝手にあがらせてもらうぞ。お前の主人に会いたいんだ」



その言葉に反応したのか、子猫はドイツの膝から滑り降り、廊下を進みかけて振り返った。案内するから、とでも言うように一声ないて、ピンと伸ばしたまっすぐな二本の尻尾を揺らす。抗えぬものを感じて、ドイツはその小さな先導者について歩き出した。
















廊下を進むほどに、ドイツは奇妙な感覚が大きくなっていくのを感じていた。日本の家はこんなに広かっただろうか。そこそこ大きな屋敷だから、当然、ドイツが立ち入ったことのない場所もあるはずだが、外から見た建物の大きさと内部の広さがつり合っていないように感じるのだ。片側に砂壁、もう片側に襖がどこまでも続いている。日が沈んだからか、灯りがないせいか、行く手は闇に閉ざされている。しかし、銀色の子猫を見失うことは不思議となかった。
ふと、子猫が足を止める。突き当たりの砂壁に、細い光と人の影が映っていた。左に折れる廊下の向こうに、人の気配がする。
ニゥ、と声を上げる子猫を抱き上げて、ドイツは廊下を曲がった。床には懐中電灯が置かれていた。格子の前に膝をついた日本が、大きな南京錠をガキン、と鳴らした。懐中電灯を拾って立ち上がった日本は、ドイツのほうに首を向けると、いつもの顔で穏やかに微笑んだ。



「いらしてくださったんですか、ドイツさん」



「あ、ああ……。勝手に上がってしまってすまない」



「よろしいんですよ。奥にいて気づかなかった私のせいですから。もしかして外でお待ちになってくださっていたのでしょうか? 申し訳ありません」



いったいどれだけ焚いているのか、日本の着物には香が強く染み付いていた。ドイツの背筋を汗の玉が伝っていった。早くこの香りから日本を取り戻さなければ、彼は誰の手も届かないところへ連れて行かれてしまうのではないか。
小さな懐中電灯の光が闇から切り取っている領域は狭く、日本の肩の端は闇に浸っている。早く明るいところへ、戻らなくては。



「日本、話があるんだ、とりあえず部屋に…………」



ドイツの言葉を遮るように、闇の中で何かが動いた。



ザ、と荒い繊維が擦れるような音がする。ず、ズ、ずる、ず、と。ひどく緩慢に、何かが暗闇の中を這いずって近づいてくる。
しゅるり。衣擦れの音。
日本が錠を掛けた格子、その角材を、白く細い指が握っていた。



見開いたドイツの目を黒い瞳に映して、日本はくるりと背を向ける。先ほどと同じように格子の前に膝をついて、白い指を撫でた。優しい声音で、その指に、否、指の持ち主にささやく。



「いけませんよ、ちゃんとお布団に寝ていてくださらなくては。あとで何か、消化にいいものをお持ちしますから、しばらくお休みになっていてくださいな」



格子に爪を立てて、囚われ人はその甘い声に逆らった。ひぅ、ひぅ、木枯しのような吐息がドイツの耳に届く。沈香の香りがさらに強くなった気がして、眩暈がした。



日本が着物の裾を直して立ち上がる。格子に縋る指はまだ、叫びを上げ続けていた。掠れた息だけであったとしても、ドイツの耳にはその声が自分の名を呼んでいるのがわかった。徳国、と。



一歩、踏み出した足は止められた。



「誰が、見ていいと言いましたか?」



可憐な唇をほころばせて、日本はドイツの目を見据えた。



「誰が、この人の目に映ってもいいと? この人に名前を呼ばれてもいいと言いましたか? ねぇドイツさん」



心臓をその笑みが鷲掴む。硬直したドイツの腕から、銀色の子猫が飛び降りた。二股の尾を振って、格子に潜りこんでいく。たちまちに、その姿は向こうへと溶け去った。



「…………お茶を淹れましょう。どうぞ、こちらへ」



日本の小さな背中に従う。内臓に氷を突き立てられている気分だ。後ろで格子を掻き毟る音がしても、ドイツは日本について歩む足を止めることはできなかった。追いすがるように香る沈香を吹き払うように、大きく息を吐いた。鉛の塊を飲み込んでしまったように、重苦しさが消えなかった。
冷える一方の背筋と対照的に、目の奥が熱くなる。カチカチと震える歯。唾液が異常に舌に絡みつくようで、無理に飲み下した。



「ドイツさん」



ふいに、日本が足を止める。ドイツもまたぎくしゃくとその足を止めた。肩ごしに振り返った日本はこの上なく艶に、微笑んでみせた。



「どうぞ、ご内密に」



自分も、囚われている。もう、彼から逃げることはできない。こわばる身体が、何を受け入れるべきかを知らしめていた。
息を吐こうと唇を震わせたドイツの頬に、少し骨の浮いた手が添えられる。掌が、ドイツの肌に吸い付くように熱を帯びた。頷いたドイツに、日本はいい子ですねとささやいた。



おそらくこの後、日本は茉莉花茶をふるまってくれるのだろう。滲んでいく視界を閉ざす掌の温度を感じながら、ドイツはゆっくりと、己の主に頭を垂れた。

 









 

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長くなりました。
自分がどのへんを狙っていたかも既に忘れた感じです。これじゃあ日本がただのあぶない人。
ドイツがすごく情けないし……。どうしたものか。日本を開き直らせたのが悪かったのでしょうか。



中日で救いのなさそうなのは前々から書いてみたかったんですが、戦争に関係ないところで書いてしまいました。
しかし、中国さんが日本を監禁するほうで書けばよかったのに、普通にしたんじゃ面白くないと思って逆にしたのが悪かったんですね、きっと。日本が思いつめると色々怖そうな気がします。
座敷牢は個人的に萌えるシチュなので、そこが書けたのだけは満足です☆



天命云々の話は、『蒼穹/の/昴』『中原/の/虹』などに出てくる龍玉を中国さんに置き換えてみたものです。



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