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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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仏→日










聞きたくない。あの切なげで、甘く悲しい響きを。
そう思うのは、いけないことだろうか。






いつも通り熱を感じさせない表情の中に、ふとよぎる翳りを見つけたとき。
彼の周囲を取り巻くせわしない国々を、あの黒い瞳が追いかけるとき。
その中に、あいつがいるとき。
少しだけ嬉しそうな薄い笑みと、そして切ない色が日本を彩るとき。
日本の口からあいつへの言葉が紡がれるとき。






(知らなきゃよかった)






くしゃり、と指先に髪を絡ませて俯く。よく磨かれた大理石の床に載った革靴は、一歩を踏み出そうとはしなくて。こんなの、自分らしくないとわかっているのに。



日本があいつを好きなことに気がつかなければ、もっと気楽でいられたはずだった。
世界中で二人しか知らない、秘密の恋。あんなにも甘くて優しい視線にも、あいつは気づかない。



(もうやめちまえよ。見るのも、話すのも、全部忘れて俺のところに来ればいい)



そう言いかけて、何度も言葉を呑み込んだ。
それは自分に向けられる日本の笑みがあまりにいつも通りのものだったから、紡がれる挨拶の言葉があまりに柔らかで憂いのない響きだったから。
どうしたって、自分はあいつに敵うはずはないのだと、誰も敵うはずはないのだと、思い知らされる。
日本特有の間接的な表現は、ただ自分にばかりは曖昧な部分が少しも感じられなかった。瞳に、声音に宿る恋情はあまりに雄弁で、艶めかしくて、痛々しかった。
そしてそれに気づいているのは、知っているのは、どうしたって勝ち目のない自分ただ一人だけなのだ。



こんなざわめきの中、床を注視していてさえ、この耳は日本の声を拾う。日本があいつのために話している、その空気の震えなど届かなければいいのに。



日本はいろんな言語を操るけれど、あいつのための言葉だけは、いつでも特別な響きだ。
ほかのどんな言語よりも、あの美しい日本語よりも、特別な響きだ。
限りなく透明に近い想いを漂わせたまま、日本は口元に笑みを刷く。穏やかに仕立てられた、しかしあいつのためだけの特別な笑みを。違いに初めて気づいたときには、気が狂いそうなほど苦しくなった。






(ほんとうに、知らなきゃよかった)






彼の話す言葉が、フランス語だけならよかったのに。








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