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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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大英帝国の流儀 4

そのころ、スペインでは。



















青い空、白い雲。心地よい風。



「うら、そこ!! 何ちんたらしとんねや、早う運ばんかい!!」



そして、響きわたる怒声。
オレンジの花の香る国、今をときめく覇権国家スペインでは、今日も船大工の親方が弟子たちを叱り飛ばし、職人の魂を込めてお仕事中だ。



「ああ…………はよお昼休みならんかなぁ。腹減ったなぁ。疲れたなぁ。うまいメシ食ってシエスタしたいわ……」



木材を何本も担いで運びながら、スペインはため息をついていた。太陽の帝国とも綽名される大国に似つかわしくない作業着姿。造船所で働き出してすでに一月経っているが、人手不足のせいで進み具合ははかばかしくない。スペインの国庫にうなる財産で木材は買えても、国内の船大工の数が足りないのだ。
あの外道な海賊国家イングランドをぎゃふんと言わせるため、世界最強のスペイン海軍にふさわしい、最高の艦を造らなければならない。が、今度の仕事はスペインにとってはかなり不満だった。



「だいたい、俺の扱いってヒドすぎへんか? このヨーロッパで、どこの国が作業場で木材担いでる? 人手さえ足りとったら……はぁ…………ロマーノ今頃どないしてんねやろ」



現場の視察に来ただけのはずが、棟梁の勘違いからいつのまにか新入りの徒弟だということになって、しかも上司はその誤解を解かないまま帰ってしまった。ご丁寧にも、作業員宿舎にスペインのお泊まりセットを置いて。



「あの上司、ぬぁにが『ほな、あんじょー働き』や! ホンマいてもたろか」



ぶちぶちと、文句だけは言いながらもスペインは木材を運び続ける。これを運んでからカンナがけするのが今日の仕事だ。もともとこういう仕事の要領はいいほうだから、先輩の隣に陣取って真似をすればどんな技術でもある程度はすぐできるようになる。そのおかげで覚えが早くて愛嬌があって働き者だと、棟梁や先輩にはすっかり気に入られていた。



割り当て分を運び終わり、ぐぐっと背を反らす。もうすぐ南中する太陽は燦々と輝いている。ロマーノは今頃、家で昼食の支度を終えたあたりだろうか。多く作りすぎたじゃねーかちくしょーこのやろー、と唇をとがらせる可愛い子分を思い描いて、スペインはそのぷくぷくした温もりが恋しくて仕方なかった。



「包丁とかでケガとかしてへんやろか~……手紙の返事ももう三日も来ぃひんし……」



上司がロマーノの面倒まで気を回してくれているとも思えない。



「ああ~~、心配や……」



今日の仕事が終わったら、早馬でマドリッドまで様子を見に行ってみようか。
過保護はいけませんとオーストリアにいつも言われるが、子分を心配するのは親分として当然だ。



「問題はどーやって休みをもぎ取るかやな……明日の午前中だけでも……」



「なんやアントーニョ、お休みて?」



「うひょわ?!」



後ろから肩を叩かれて、スペインは飛び上がった。振り返ると先輩の一人であるカルロスが、人の良さそうなたれ目を細めて笑っている。



「目標の130隻までまだまだなんやでー。そう簡単に親方が休みくれると思えへんよ?」



で、キミどこのセニョリータに会いに行くつもりなん?
ニヨニヨと肘で脇腹をつつかれ、スペインは曖昧な笑いを浮かべて誤魔化した。



「ほら、もうランチの時間ですやん、行きましょー」



指差した先には、まかないの老女が作業員たちを呼び集めている。湯気を上げる大鍋の周りに、皿を持った男たちが列を作り始めていた。

 









鶏の手羽先入りクリームスープとチーズパンが本日のランチだった。長時間煮込んだ鶏肉はスプーンでつつくとほろほろと骨から離れ、スープにはそのダシがよく出ている。柔らかくなったキャベツがおいしくておいしくて、スペインは四回ものおかわりをした。
おかわりにありつけなかった先輩たちが不満の声を上げるも、まかないのおばあちゃんは綺麗に無視して鍋をさらえ、スペインの皿に残りのスープを全部入れてくれた。その仕返しとばかりに食後のデザートワインは古参の職人に取られてしまったが、それくらいはまぁいいだろう。



「ああ、今日もうまかったわぁ~。」



木蔭のベンチに寝転んで腹部をさする。これから一時間はシエスタの時間だ。皿洗い当番だと寝られないが、今日のお昼は当番ではなかったはず。



「あふっあぁ~~……おやすみぃ~……」



夏用の綿毛布を被って目を閉じる。瞼の上で木漏れ日が揺れるのを感じながら、スペインは夢の中へと



「おーーいアントーニョーーお客さん来てはるでーーー!!!」



「くっ……何やねんホンマに……!! 俺むっちゃ眠いんやけど……!!」



来客とやらの用事がつまらなかったらアルパカをけしかけてやる。
あくびを噛み殺したスペインは目を擦り擦り、ベンチから身を起こした。
木蔭のほうへ、立派な身なりの商人風の男たちが歩いてくる。いずれも背が高い。おそらくはネーデルラントの商人だ。その後ろから王の侍従と自分の部下が一人ずつついてくる。



「お館様ー、お久しゅうございますー」



「おーフェデリコ、久しぶり。ロマーノどうしとる?」



「そらもう、お元気にしたはりますよー。(相変わらず食っちゃ寝、食っちゃ寝で……!) それでこちらのお人らはぁ」



と部下は商人たちを振り返った。男達は帽子を取って、スペインの前に膝をつく。年長の男が口を開いた。



「私どもはアントワープ材木流通商会でございます。このたび貴国が大艦隊を建設なさると聞き及び、私どもならばお力になれると思い、こうして参上いたしました次第です」



「ほんまに? そらおおきに。せやけど、材木はまぁ足りる勘定なんやわ。これ以上買うたら余ってまうんちゃう? なあハヴィエル」



しかつめらしい顔で控える王の侍従に話を振ると、彼は頷いた。



「たしかに、木材はこれ以上は必要ありません。すでにアランサバル商会に130隻分の材木を注文してあります。しかし、彼らは材木を売りにきたわけではないんです、カリエド様」



「なんやて?」



材木流通商会が材木を売らずに何を売るというのか? 男達の顔を見比べ、スペインは首を傾げた。



「私どもがお売りするのは、人材でございます」



「人材?」



「私どもは木材を扱っております。当然、それを購入する客層を完璧に把握しております。つまり、その顧客リストの中から艦隊建造に役立つ人材をご紹介できるということです」



なるほど。つまり、この男達は大工や木工職人たちに材木を卸している。各地のギルドに声をかけて人を集められると、そういうことか。



「どれくらい集められるん?」



「ヨーロッパ中に声をかけますれば、100以上の工房から人を集めることも可能です」



それならば、二年ほどですべての準備を終えてブリテン島攻略に着手できる。



「アントワープ材木流通商会には、紹介料として人件費の一割を支払い、残りの九割を新しく入る船員達の給料として各工房に分配します。
すでに陛下は見積もりを出すように財務大臣にお命じになりました。あとはカリエド様のサインだけです」



「ん、わかった。フェデリコ、ペン出したってんか」



すかさず差し出された羽ペンとインクを持って、スペインは材木流通商会との契約にサインした。これで人手が足りるようになる。可愛いロマーノの待つ家に帰れるのだ。
サインを確認した商人は、うやうやしく頭を下げる。



「ありがとうございます。これからもどうぞ、ご贔屓に」



「ほな、よろしゅう頼むで~おっちゃん。いやー助かるわホンマ。おおきになぁ」



それなりに楽しかったが潤いのない大工仕事の日々に別れを告げて、今夜からはまたロマーノとの生活に戻れると思うと、目の前はもう薔薇色だった。ヒゲ面の商人たちが聖者に見えてくる。神さんおおきに、これで俺はカワエエ子分の待つ我が家へ帰れます。次の日曜には教会に寄付をしに行きます。



「来週末には第一陣が到着する予定です。『それまではあんじょー働いてなぁ』との、陛下からのご伝言です」



「え、ちょお待って、迎えに来てくれたんちゃうん? なぁハヴィエル?!」



王の侍従は謹厳な面持ちを崩さず、首を横に振った。横でフェデリコがインク壜に蓋をしながら苦笑している。ああ無情。ハヴィエルは胸に縋りつくスペインの手を埃のように払うと、実にそっけなく一礼した。



「ではカリエド様、失礼いたします。どうぞお励みくださいませ」



「ほな、僕もこれで失礼さしてもらいますわー。お館様、ロマーノ君が割らはった壺やらお皿の分、あんじょー稼いできてくださーい」



「ちょ、なんやの割った壺と皿の分て?! フェデリコ?!!」



侍従のあとに続いて部下も、へら、と笑って手を振り振り遠ざかっていった。商人たちも帽子を被って一礼し、マントを翻して去っていく。



スペインが立ち尽くす木蔭に、午後の穏やかな風がさらさらと吹き過ぎる。初夏の花々が薫る風に包まれて、あわれな一人の男はベンチの座面に泣き伏した。

 






 

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一応関西人とはいえ、端の端に住んでいるので、いろいろと言葉遣いがおかしいかもしれません。寛大なココロで見逃していただければありがたいです……。



というわけでアルマダ建設現場のスペインの様子でした。しかし、なんていじめやすいんだスペイン……!!


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