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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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花のをとめ

台湾さんがご本家で本格的に登場することを願って…


















それはまだ台湾が小さな女の子だったころのことです。

 







二月の最終週に日本さんが飾ってくれた七段の雛人形は、夢のように綺麗でした。
真っ赤な毛氈の裾には豪華な刺繍が施され、蒔絵の施されたお道具類が整然と並べられていました。橘と桃の造花、白木の欄干、美しい和紙を使った雪洞、金の屏風。美しい着物を着たお内裏様とお雛様。銚子や盃を持ってお仕えする三人官女。左右の大臣に五人囃子、雑色たちも、みなお行儀良く座っていました。



あなたが健やかな、美しい淑女に成長するのを、この人形たちが見守ってくれるんですよ。



ひな祭りに合わせて新しく桃の花の髪飾りをくれた彼は、まるでお内裏様のように優しい穏やかな笑顔でした。つい最近まで、朝廷に出仕する時には古式ゆかしいこのような服を着用していたのだとか。今でも儀式で衣冠束帯を身に付けることもあると聞きましたが、台湾はまだそのような儀式を見たことがありません。公の儀式に参列するには、教養というものが必要なのだそうです。だから台湾は自分の家にいるときも、日本さんの家に来ているときも、勉学を欠かしません。日本さんもそれをたいそう喜んでくれて、いつもやさしく励ましてくれます。台湾はそんな日本さんが大好きでした。

 







三月三日が過ぎても、お雛様はまだお座敷に飾られたままでした。いったいどうしてかしら、台湾は訝りました。ひな祭りが過ぎたら早くお雛様を仕舞わないとお嫁に行き遅れてしまう、と詩文の先生が仰っていましたので。



お客様がまだいらっしゃるのはわかっていましたが、台湾は小走りで廊下を渡って応接間へ急ぎました。むこうの曲がり角からちょうど、背の高い金髪の男性が出てくるところが見えました。肩にかかるくらいの柔らかそうな髪をなびかせて、男性は優しげな笑みを浮かべました。



「Bonjour, mademoiselle. ご機嫌いかがですか?」



「ごきげんよろしゅう、フランスさん。おかげさまで変わりございませんわ」



早口の挨拶は、作法の先生に聞かれたらきっと咎められるでしょう。しかし今はそれどころではありません。お雛様を早く仕舞ってあげないと、自分の夢は叶わなくなってしまうかもしれないのですから。
そわそわした様子の台湾を見て、フランスさんは苦笑したようでした。廊下に膝をついて、台湾と同じ高さになった青い瞳でじっとこちらを見つめます。



「どうしたのかな? 日本ならすぐ来るけど。なんならお兄さんに話してみない?」



普段ならば、きっとためらっていたことでしょう。なにしろ相手はフランスさん、以前日本さんに、台湾を売ってくれないかと打診してきたこともある危険な国なのです。しかし、いまの台湾はそんなことに構っていられない心境でした。



「まだお雛様が飾ってあるんですの。早く仕舞わないと私、お嫁に行き遅れちゃう……」



目の奥が熱くなってきて、台湾はスン、と鼻を鳴らしました。大和撫子たるもの取り乱すべからず、なのですが、人生の危機に遭遇して取り乱さない少女がいるものでしょうか。



「お雛様って、長く飾ってるとダメなのか? そんなジンクスがあるなんて大変だな」



フランスさんはそう言って、台湾の小さな手を両手でくるみこみました。日本さんよりもずっと大きくて熱い掌でした。



「台湾ちゃんならきっと、純白のローヴ・ド・マリエが似合うだろうな」



もし良かったら、俺のお嫁さんになってくれない? 



とびきり優しい囁きに花のような笑みをこぼして、けれど台湾は首を横に振りました。小さな胸の中にはもう、たった一人の人がお住まいなのです。
けれどもまぁ、フランスさん流のジョークと彼の温かな手は、台湾をいくらか落ち着かせてくれたようです。



「素敵なお誘い、ありがとうございます。けれど私、結婚式には白無垢と決めておりますの」



「あらら、お兄さんフラれちゃった……」



あくまで淑女らしく、直截な表現を避けてそう申し上げると、いかにも意気消沈といったふうにうなだれるフランスさん。その後ろから、パタパタと軽い足音が近づいてくるのが聞こえ、台湾はあわててフランスさんの手の中から自分の手を引っこ抜きました。



「フランスさん、いま車を……。おや、台湾さん、どうしました?」



「日本さん! あの、お雛様なんですけど……」



「早く仕舞わないとお嫁にいけなくなるってホントなのか?」



台湾とフランスさんの言葉に、日本さんはああ、と庭の木に目をやりました。



「旧暦の三月三日までは飾っておこうと思いましてね。そうすれば桃も咲きますから、お雛様に本物の桃の花を添えてあげられますし」



本来ならこのような年中行事はみな、旧暦で行っていたんですよ。だからもう少し飾っていても、台湾さんの結婚が遅くなったりはしないでしょう。との言葉に、台湾は背筋の緊張が一気に解けたような心地になりました。お雛様たちにも桃の花を見せてあげようなんて、粋なはからいです。ほっと安堵の息をついた台湾の髪を、日本さんの手が撫でます。



「もうすぐ書道の先生がいらっしゃる時間でしょう。台湾さん、先生のお出迎えに行ってきてください」



「はい、わかりました」



日本さんとフランスさんにぺこっと頭を下げて、台湾はいま来た廊下を戻りました。撫でられた髪から胸に熱が移ったように、甘ずっぱいような、苦しいような気分がします。玄関で先生にお会いするまでに、台湾は何回も深呼吸して、スキップしそうな心臓を落ち着けなければいけませんでした。



(今朝、念入りに櫛を入れて本当によかった……!)

 

 







 

 

  * * * * *

 

 







 

 


「いやー、かわいいなぁ台湾ちゃん。夢はステキなお嫁さん、かぁ」



「ああ、教育上よろしくないことを彼女に教えたりなさいませんでしたかね? フランスさん」



「ちょ、日本てばどーゆー目で俺を見てるワケ?」



にこやかな笑みのまま、眼光だけ鋭くさせた日本に、フランスは肩を竦めてみせた。この分だと、台湾の手を握ったことは秘密にしておいたほうがよさそうだ。



「しかし、将来はすごい美人になるなぁ。お兄さんの美的感性がそう予言してる。嫁の貰い手には不自由しなさそうだよなー」



「嫁入りですって? とんでもない」



即座に首を横に振った日本に、フランスはドキリとした。まさかまさか、やっぱり光源氏計画? と胸が高鳴る。お兄さんそういう話、けっこう好きなほうだ……。
そんな期待をよそに、日本は至極厳かな表情できっぱりと宣言した。



「あの子は婿養子派です」



「…………はぁ」



まさしく一人娘を溺愛している過保護な父親の台詞だった。



「あの子の婿志願者には、うちでみっちり花婿修行をしていただきます」



「ははは……大変そうだなー……」



なんだかいろいろな意味で、台湾の結婚問題は前途多難のようだ。この難問はアムールの国フランスといえども、やすやすとは解けなさそうである。

 







 

(ああ、愛の女神様、どうか彼女の恋を応援してあげてください!)

 

 

 

 

 








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遅ればせながら、ひな祭りssを書いてみました。
台湾さんはいろいろとネタがあるにも関わらず、ピュアピュアの乙女心をどう表現するべきかで困るので、辻倉はちょっと苦手です。好きなのに!



今回は明治時代が舞台ですので、日本さんの意識もそんな感じです。
花婿修行はアレだ、とりあえず剣道は必須科目ですね!


 

題名は、ハイネの詩『花のをとめ』から。



妙に清らの、あゝ、わが児よ、
つくづくみれば、そゞろ、あはれ、
かしらや撫でゝ、花の身の
いつまでも、かくは清らなれと、
いつまでも、かくは妙にあれと、
いのらまし、花のわがめぐしご。



という詩です。(上田敏・訳)






開国まもないころの日本にとって、台湾を統治するための資金の捻出は大変だったようで、台湾売却論まで出たのだとか。その売却先として名前が挙がったのが、当時台湾に特別の関心を抱いていたフランスなのでした。
ヘタリアで考えると、【特別の関心】がなにやらいかがわしい方面に思えて仕方ありません。けしからんですよフランスさんってば!


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