銀星糖
こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。
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缶さまへ、愛の押し売り
【日受け、ほのぼの】というリクエストをいただいたので、修行もかねて墺日で。ちゃんとほのぼのになってますか?
缶さま、お受け取りいただきましてありがとうございました!
【夏期休暇】
日本の家の深い軒は夏の強い日差しをさえぎって、屋内はやわらかな影に浸されていた。
砂色の紙が張られた襖はおぼつかない外光をやさしく滑らせて、室内のほのぐらさを保っている。
畳を取り払って磨き上げた床材を敷き、欧風の家具を置いた一室。壁に寄り添うように、古風なつくりのアップライトピアノが一台佇んでいる。年月が経って木肌に自然な黒ずみと光沢が出、木目も美しい。
オーストリアはすべての音を正確に整え終わると、ガーゼの手巾で額の汗を押さえた。
湿度が高い分、空気が肌に吸い付くようだ。開け放たれた障子からは太陽光に曝された庭の、乾いて白っぽく見える地面が光って見えた。激しい光と影のコントラスト。青竹の垣の向こうには、真夏色の晴れ渡った空があった。
オーストリアの耳が、廊下を打つ軽い足音を捉えた。入口からひょいと顔を覗かせた家主に、終わりましたよ、と声をかける。
「まったく、こんな上等のピアノを調律もせずに放っておくなんて」
「すみません、気にはなっていたのですが、つい先延ばしになってしまっていて」
オーストリアさんが調律してくださって助かりました。日本はそう言って頭を下げた。絹糸のような黒髪がさらりと零れる。その一筋から、ほんのりと甘ずっぱい柑橘の匂いがした。
「お茶にしましょう。今日はうまくアイスティーが淹れられたんですよ」
絽の和服からすっきりと伸びた細い首筋がまぶしい。古びた声を立てる床板を踏む白い足袋や、わずかに覗く足首も。洋装の日本を見慣れた目には、ひどく新鮮だった。
こちらへ、と先導する小さな背に従って部屋を出ると、遠くで蝉の鳴く声が聞こえる。合わせるように、軒先の風鈴がひとつ、澄んだ音を奏でた。
紗のランチョンマットの上に、水出しの紅茶とオレンジムースが並ぶ。みずみずしい果肉と薄荷の葉を添えられたそれを、オーストリアは銀の匙で撫でた。
「これは、あなたがご自分で?」
「ええ、お口に合うとよいのですが」
鏡面のように滑らかな漆の座卓に、濃度の異なる漆黒が映っている。ガムシロップとミルクのポーションを盛った籐のカゴを傍に置いて、日本は頷いた。
うすくオレンジがかったムースを一匙すくうと、口へ運ぶ。爽やかな甘味と酸味が、舌の上でやわらかくほどけた。
「おいしいです、とても」
ウィーンといえども、これほどのものにはなかなか出会えないのではなかろうか。つい、匙を操る手が速くなる。あっという間に皿を空にして、オーストリアは息をついた。いけない、この私が早食いだなどと、はしたないまねを。
「ふふ、オーストリアさんにお気に召していただけたのなら、私の腕もなかなか捨てたものではありませんね」
日本は薄荷の葉をつまんで口に入れながら、満足そうに笑った。
アイスティーを口に含むと、まろやかな香りとセイロン紅茶のすっきりした甘味がムースの跡を浚っていく。坪庭の筧の幽かなせせらぎや、床の間に活けられた夏の花々が暑さを追いやり、真新しい畳の青さも目に涼しい。静かな午後だ。
「日本」
皿を重ねてお盆に片付けている日本を、指先で差し招く。
「ここにお座りなさい」
日本がオーストリアの指の示す通りに彼の横に座ると、オーストリアは横になった。正座している日本の腿に頭を乗せる。適度な弾力と高さ、傾斜角度も申し分ない。なるほど、これは良いものだ。
「お、オーストリアさん?」
「何ですか?」
視線を上げると、困惑の色を宿した瞳が揺れる。無理もない、オーストリアがそのような行動をとったことはいままでになかったのだから。手を伸ばして柔らかな頬をくすぐると、目は猫のように細められた。
「イタリアにあなたの膝枕を独占させておくのはいかがなものかと思いまして」
口の端に笑みをのせると、日本がほんのりと頬を染めるのがわかった。彼は自分の笑顔に弱い。
眼鏡を取ってくれるよう言えば、細い指が両の蔓にかかる。そのまま慎重に取り外され、蔓を畳まれたそれは卓の上に置かれた。
「オーストリアさんのお顔をこんな角度から拝見するのは初めてですね」
日本の指はそのまま、オーストリアの額を滑った。いつもイタリアにそうしているように、前髪をかき上げるように撫でる。少し冷たい指の温度が心地よい。
「オーストリアさん、髪の毛やわらかいですねぇ」
「マリアツェルを弄くるのはおやめなさい」
日本が指先に絡ませるようにマリアツェルを触るので、くすぐったい。お返しのように日本の髪に伸ばしたオーストリアの指は、日本にあっけなく捕われた。
「手もやはりお綺麗ですね……」
この手から音楽が生まれるのかと、日本が呟く。
「もしよろしければ、あのピアノで何か弾いていただけませんか?」
「そうですね……。でももう少し、このままで」
一度横たわってしまうと、身を起こすのが大層億劫に感じられる。それが恋人の膝枕ともなれば尚更だ。日本が手を撫でるのを好きにさせたまま、オーストリアは言った。
「あのピアノ、随分古いもののようでしたが……」
「ええ」
頷いて、日本はその黒い美しい瞳をどこか遠くへ向けた。
昔、この近くに女学校がありました。そこの何代目かの校長先生が、退任の際にあのピアノを寄贈されたんです。それ以来ずっと女学生たちにその音色を愛されて、七十年ほど経ち、とうとう学校が廃校になったとき、ピアノは私の家に来ました。もうすぐあのピアノは百歳になります。
「忙しくていままでろくに弾いてあげられなかったんです。久しぶりの演奏ですし、ぜひオーストリアさんに」
「光栄ですね」
オーストリアは自由になるほうの手を顎に当てて、暗譜している曲をいくつか思い浮かべた。日本とあのピアノには、優しい音色が似合うだろう。美しい曲を贈りたい、そう思った。
ちりん、と風鈴が鳴り、日本は風をさぐるように縁側を見た。微風が出てきたのか、竹林がさわさわと揺れている。
「もうすぐ夕立が来ますね」
「こんなに晴れているのにですか?」
「空気に雨の匂いが混じってきましたから」
そう言われても、感じるのは畳の匂いと、日本からほのかに香る石鹸の匂いだけだった。
相変わらずの夏の日差しが庭に照りつけるのを眺めていると、だんだん瞼が重くなってくる。日本の手がまた髪を撫でるのも、オーストリアの眠気を誘った。全身をひたすぬるま湯のようなだるさに逆らわず、オーストリアは目を閉じる。
「雨が、あがったら……起こしてください……。……ピアノをお聞かせ、いたしましょう……」
「はい、楽しみにしていますね」
やわらかな日本の声音を聞きながら、オーストリアの意識は甘いやすらぎに沈んでいく。
夢の入口で聴いたピアノの音は、あるいは雨だれの旋律のようでもあった。
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他国の人が「オーストリア人の舌は砂糖で出来ている」と言うくらい、オーストリアはお菓子にうるさい国だそうです。
図書館で借りてきたオーストリアについての本がすごく詳しいものだったので、熟読してネタをさがしますよー。
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