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銀星糖

こちらは、キタユメ。様で連載中の「AXIS POWERS ヘタリア」のファンサイトです。二次創作を取り扱っておりますので苦手な方はご注意ください。


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英日





 


晩餐の食卓を挟んで、二国は向かい合っていた。
夜になろうと日本の夏の暑さは和らぐ気配もないけれど、新調したという扇風機が天井で調子よく働いてくれているおかげで、石造りのホテルもなんとか涼しさを保っている。



開国からおよそ七十年。欧化政策を掲げて走り始めた日本は、多くの分野において成功を収めてきている。
このホテルも外国から技師を招いて作り、ホテルマンも一挙手一投足まで欧州風に訓練されている。用意された料理も、アジアで食べられるとは思えないほどのものだ。
しかし。



上等の白ワインも、今日のイギリスの食欲を増進させることはできなかった。きれいに盛り付けられた白身魚の料理にも、申し訳程度にナイフを入れただけだ。日本での食事はたいそうおいしく、それは今日も変わらないはずなのに。



「どうかされましたか、イギリスさん……お口に合わなかったとか……?」



「いや、そんなことはない。ただ……」



黒い瞳の中で蝋燭の炎が揺れる。この黒い輝きは、出会った頃から変わらない。国体や制度がどんなに変わっても、ヨーロッパの文物が流入しても。外国と、戦争をするようになっても。



そういえば、日本を初めてきれいだと思ったのも戦場でのことだった。もう二十年以上前、中国で大規模な暴徒の乱があったときのことだ。
黒い肋骨紋様の軍服を着込み、日本刀をかざして突撃隊の先陣を切る彼を目の当たりにした。それまでの東洋の小国、有色人種の新興国という認識は、あのとき覆されたと言ってもいい。
砂塵舞う黄色の大地を駆けるその姿は、今でもあの日のままに脳裏に焼きついている。



その一年後、ロンドンのランズダウン侯爵邸で二国は約定を交わした。数百年続いた“光栄ある孤立”の、これが終幕で、そして日英同盟の始まりだった。あの日初めて握手をした。刀を握る手とは思えぬ、柔らかな手と。



「あれから、もう二十年以上経ったのですね」



イギリスの胸中を読んだかのように、日本が呟く。その穏やかな声音が、イギリスの唇を震わせる。喉元までせり上がった言葉は、しかし吐息とともにいずこかへ消え去った。
日本はナイフとフォークを作法どおり揃えて皿に置き、口元をナフキンで拭った。白い海軍服は、陸軍の服よりもよほど日本に似合う。やはり日本海軍においてイギリス式の教育が採用されたのは正解だった。



「イギリスさんには、何から何までお世話になりまして、本当に感謝しています」



真摯な瞳が、まっすぐにイギリスを捉える。さびしげな笑みを見ていられなくて、イギリスは目を伏せた。他にできることは何もなかった。自分が笑顔を繕おうとしても、失敗するのは目に見えている。



「いや、お前が熱心だから、俺も教えがいがあった」



言いたいことはいくらでもあるのに、そのどれもが言えないまま、心にうずまく。出てくるのはこんな、当たり障りのないことだけで。



できればずっと、この手を握ったままでいたかった。複雑怪奇な世界情勢の潮流も、二人を引き裂くことなどできないと信じていたかった。



沈黙に包まれた部屋で、ただ蝋燭の炎が揺れる。二つの心を映すかのように、滴を零して。

 









 

1923年 8月17日  日英同盟失効











 

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下敷きには杜牧の詩を使用しました。



日英同盟のおかげで日本はいろいろと得しましたよね。
イギリスが同盟相手に日本を選んだ理由の一つに、北清事変での日本軍の規律正しさがあったとされます。軍に国際法学者を同行させ、戦時国際法を可能な限り遵守しようと努めた日本軍の姿勢に感心したのだとか。




 

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